PANORAMA STORIES
フィンランド、森のブルーベリーは心のセラピスト Posted on 2017/04/10 ヒルトゥネン 久美子 通訳、プロジェクト・コーディネーター フィンランド・ヘルシンキ
暗くて寒く、そして長〜い冬が、やっと終わりを告げそうな時期になりました。
フィンランドに住んで24年。雪が溶けて汚れた土の下から黄緑色の芝が見えたり、タンポポの蕾や忘れられていたクロッカスの球根が芽吹くのを見つけたら、その日はとってもラッキーな気持ちになります。
そんな小さなことでも大喜びする自分に驚き、「私も結構可愛いところがあるのね。」なんて自分の意外な一面を発見します。
小さな春の到来にはしゃいでしまうのは、きっと酷寒の地に暮らす人々皆が体験することではないでしょうか。
フィンランドの春は短く、あっという間に白夜の夏がやってきます。
フィンランド人は“森の民”と言われますが、私もすっかり森の民・予備軍です。
仕事では不便なこともありますが、首都ヘルシンキから60km離れた田舎に暮らしているのはすぐ裏に森があるから。白夜の夏になれば、仕事から帰ると長靴に履き替えて裏の森にしゃがみます。
目を低くしてみると低木のブルーベリーが森中に自生しています。
まさしくオーガニック! その無数にある野生のブルーベリーは採っても、採ってもなくなりません。
フィンランドの法律で、「全ての森のベリーやキノコは誰が収穫しても良い」と定められています。
誰の森に入ってもいいんです。国立公園でさえも!
どれだけ採っても森の恵みは90%残ると言われています。それだけ太っ腹な自然大国なので、領域を争うこともなく冷凍庫1年分の森の恵みをあっという間にいただくことができます。
森のブルーベリーは私の最愛の心のセラピストでもあります。
「あっ! あそこにも! あの白樺の下にも!」と欲張りの私は大きそうなベリーを見つけては前に前に進んでいきます。ふと気がつくとお尻の横に、また今踏んでしまった足元にも。大きなベリーたちや、小ぶりだけど山のようにたわわになっている枝など、見えていないところにも一杯あるのです。
「何をそんなに急いでいるの」「あなたのすぐ横に、足元に私たちはいるよ」と話しかけられているようで、ちょっと変かもしれませんが、私も「そうだよね〜。私って何も気がついていなかったね。」とベリーに返事をしながら森の時間を過ごしたりします。森の中で独り言を言っているシーンは想像すると恥ずかしくなります。でも、この時間が100%無になれる、日常の自分を離れてみることができる、私にとってとても貴重な時間なのです。
日本で暮らしていた頃、良くも悪くも常に前を見て頑張ることをモットーにしていました。
頑張ることは周囲にも自分にも、美しく正しいことと考えてきたからです。
もちろん前を見て全身全霊で突っ走る時期も必要です。
本気でとことんやってみる勇気はいくつになっても、どこで暮らしていても持っておきたいです。
でも、森のベリーが私に教えてくれたことは “ 何に対して本気で立ち向かうのか “ ” 自分にとって大切なことは何かを見極めて “、ということでした。そして ” 自分がここに置かれていることの意味は何? “ 、と今の、そしてこれからの生き方を考えるチャンスをくれました。
ひょっとすると今この時、自分の足元に、自分のすぐ横に、私の人生で最も意味のある人との出逢いや仕事のチャンスが備えられているかもしれない。だから、前ばかり見てがむしゃらに走らず、立ち止まって、そのことを見失わないようにしたいと改めて気付かされました。
時には自分の歩いてきた道を振り返ってみること。今、立っている足元を見て、周囲を見て、自分がどこに向かうのかを見て・・・。
「心と目を開いて周囲を見渡して!」と森のブルーベリーは私に語ってくれているような気がするのです。
この月曜日(3月19日)のWorld Happiness Reportで「フィンランド:世界で5番目に幸せな国」と報道されました。北欧各国他おなじみの国々が名を連ねています。日本は51位でした。幸せの基準は色々あります。
ですが、人が作ってくれる幸せな社会に頼るのではなく、自らの幸せの基準を見つけることができたらいいですね。
せっかく与えられた自分の人生ですから、“感謝し、本質を見極めて、マジで生きたい” です。
あ〜、早く森に入りたいな〜。
Posted by ヒルトゥネン 久美子
ヒルトゥネン 久美子
▷記事一覧通訳、プロジェクト・コーディネーター。KH Japan Management Oy 代表。教育と福祉を中心に日本・フィンランド間の交流、研究プロジェクトを多数担当。フィンランドに暮らしていると兎に角、色々考えさせられます。現在の関心事はMy Type of Lifeをどう生きるか、そしてどう人生を終えたいか。この事を日本の皆さんと楽しく、真面目に、一緒に考えていきたいです。