PANORAMA STORIES
佐伯幸太郎の美女と美食三昧「佐伯の三ツ星、ES」 Posted on 2018/12/13 佐伯 幸太郎 ライター パリ
凄いレストランを見つけたので、速報です(笑)。この企画、美女と行くのが売りなんだけどさ、実は今回はフランス人のご家族に「美味しい日本人の店があるから」とご招待を受けちゃって、全く予備知識もなく、だから期待もせずにふらりと顔出したら、これがトップ! 多分、自分史の中でも最高峰の料理人の店にあたっちまった。で、編集長に頼み込んで、急遽、これを発表させてもらってるんだけど、最初に言います、この店、佐伯的にはミツボシです。現在はミシュラン一ッ星なんだけど、間違いなく二つになるし、もしかすると日本人シェフとしてはじめて三つを獲るんじゃない? そんな予感がする。本物の中の本物でした。
美食で有名な某自動車メーカーのCEOさんご家族に誘われてレストランに行ったんだよね。26歳のお嬢さんがお誕生日で、料理が出てくるまでは佐伯、お嬢さんばかり見てたんだけど、アミューズの二品を味わった途端、思わず迷いが覚めて、舌先が立ち上がってしまったんだ。何んだ、この味!!!! この期待と興奮は最後まで裏切られることがなかったのだから、すごい。
まず、アミューズの二品をご紹介すると、ノワゼットのビスキュイににフォワグラムース、トリュフをのせたもの、そして、ヤリイカとイタリア産キャビア。ヤリイカをベルガモットで風味付けてあるんだけど、この酸味がキャビアともマッチして奥行きを出してくる。刻み黒トリュフの歯ごたえの絶妙さといい風味のドラマツルギ、物凄い期待感。お嬢さんはもうどうでもよくなった。さよなら。
前菜が4皿、続くんだけど、
自家製セップ茸のラビオル、あんず茸ソース
ホタテのポワレとコック貝、菊芋のソース、ホタテのチップスのせ
栗かぼちゃのスープ、トンカ豆の泡ソース(写真撮り忘れた!!)
カキのベニエとリゾット、ジャガイモのムース、カラスミがけ
ともかく、あまりのクオリティの高さ、物凄い。どれも前の味を覆す最高の出来ばえで、セップのラビオルはありがちなレベルを超越していて佐伯は脱帽。かつらも取ります。
季節感も十二分に感じられたけど、幾層にもキノコの秋の深みが重ねられた広がりある旬の味に大満足。ホタテのポワレの上にのせられたレモンのキャビアの酸味が菊芋のクリームソースとデュエットしながらホタテをぐんと引き立ててるこの色彩感覚、オーケストレーション、企業戦略、とまれこういうレシピって食べたことがない。さらに、ベニエしたカキにからすみと黒トリュフという荒業の一皿、そのアタックに打ちのめされた佐伯はその段階で、このシェフを神さんだと思ってしまった。
名だたるミツボシも一通り経験しているつもりだが、この人がもっと上を行く才能を確実に持っている。なんでも三ツ星レストラン、アストランスで働いていたのだそうで、ああ、聞いたことがある。その当時の話をCEOに説明しているのを横目に、佐伯はまるでスターを眺めるようなハート目になっていたのだった(笑)。
昨今、話題の星付きレストランに行くと、京都の料亭なんかで伝統的に使われていた手法とかがフランス風にアレンジされてたりして、さも自分で作ったかのような顔で出されると、日本人的には我慢ならない。違うだろって思う。でも、この人は違う。独創というものをちゃんと持っていて、経験したことのない味が、まるで見たことのない絵画や映画や建築に出会った時の興奮に似たような衝撃を連れてやってくる。佐伯はこの段階で、星評価以上、と思ってしまった。
メインの魚だけがぐんとアタックが弱くて、一瞬、神話が崩れたか、と思ったのだけど、でも、静かに持ち直す力があって、これはこのシェフの底力だと思った。十皿というフルコースの中で胃袋を休める皿がここだったわけっだ。鱈のキャラメリゼ、モンサンミッシェルのムール貝とアンチョビの泡ソース。
そして、メインの肉が、ぶっとばされてしまった。その前にシェフがやって来て、アルバ産の白トリュフが本日届いておりまして、どうしましょう? とセールスするから、いいからどんどんかけてください、とCEOの財布をあてにして注文してしまったけど、このメイン、食べたことがありませんでした! カジ・ド・ヴォーの燻製仕立て、キャロットピュレとトランペット茸、ローズマリーソース。仔牛にじわっと火を入れて生暖かさを残しながら燻製にしてる、肉を食べているのだけど、肉とは思えない触感と香りでしかもそこに白トリュフが完璧にマッチしており、お世辞抜きにこれは最高なメインだと佐伯幸太郎、思わずうなってしまった一皿でした。
本城シェフが登場したので、この料理たちは何ものですか、と佐伯は矢継ぎ早に質問を浴びせてしまったのだ。
「肉はノルマンディから、魚はブルターニュからです。コースメニューしかないのは、ア・ラ・カルトメニューを作ってしまうと、その食材がよくない日にもそれを出さなければならない。魚は特に、日によって差があります。自分がメニューを決めるのであれば、その日、トップクオリティの食材のみを扱うことができるんです」
なんと、なんと、素晴らしいお返事。美食の神髄ここにあり。
デザートが三皿続きましたが、これも美味しかった。オーケストラの演奏を聞いた後に、その余韻を感じながら静かに家路につくまでの夜景という感じのデザートでした。
一皿目、ライチのソルベとジャスミンティーのぜりー
二皿目、クレモンティーヌ、フロマージュブランのアイス、ベルガモットのエスプーマ
三皿目、モンブラン。パッションフルーツのソルベ、蜂蜜のアイス入り
店は官庁街の路地にぽつんとあって、しかも看板も出てないし、暗めのファサード、通り過ぎる人にはめだたないからわからない。でも、そこを目指してくる人だけでいいという神戸出身のシェフの想いが現れているし、それでいいと思う。私がこういう記事を勝手に書くことも嫌かもしれないけれど、もっと多くの美食家にこそ食べてもらいたい料理なので、最後に一言だけ、言わせてほしい。
この人は予め用意された天才ではありません。
夜のメニュー、105ユーロのみ。
91 rue de Grenelle 75007 Paris
Posted by 佐伯 幸太郎
佐伯 幸太郎
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ライター。渡欧25年のベテラン異邦人。ワインの輸入業からはじまり、旅行代理店勤務、某有名ホテルの広報を得て、現在はフリーランスのライター。妻子持ちだが、美しい女性と冒険には目がない。モットー、滅びゆくその瞬間まで欲深く。