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佐伯幸太郎の美女と美食三昧「パリ15区のこだわりレストラン、Le radis beurre」 Posted on 2018/01/29 佐伯 幸太郎 ライター パリ
おっす! 美女と美食と美酒を求めて生きる永遠のエピキュリアン、佐伯幸太郎です。お元気ですかぁ?
さて、今日の美女はベトナム系フランス人のセシール、27歳。ユネスコで働いているので、休憩時間にサクッとランチできるところで会いましょう、というリクエストに応えて、佐伯が選んだのは人知れず人気のビストロ、らでぃぶー。フランス語だとLe radis beurre(ラディッシュ・バター)と書きます。
この店名、シェフ、ジェロームの子供たちのアイデアなんだってさ、きゃわいい。
フランスではアペリティフ時、生のラディッシュにバターと塩をつけて食べるのが一般的。蕪にバター? と日本人は驚くかもねぇ。でも、バターは日本でいう味噌や醤油の役割に近いんだ。日本人的なバター感はパンのお供みたいな感じだけど、違うんですよ。牡蠣食べる時も黒パンとバター付きだかんね、フランスじゃ(笑)。フォ~!
おっと、昼休憩の短い時間に口説かなきゃならないんだから、余計な話してる暇はない。艶やかな黒髪で麗しの黒い瞳、いいねいいね。フランスのマドモアゼルにちょっと飽きてたところだから、フォー! って感じで胃と心に優しい。ベトナムのフォーが好きすぎて、45年。
「何にする? マ・シェリー」
あの、恋人でなくても、男はちょっと仲良しの女子にこう言います。マ・シェリー(私のかわいこちゃんよ)ってな感じ。アメリカだと女性差別になるのかな? 俺なんかアメリカで暮らしてたら、きっとあっという間に失職男児だね。その点、フランスは感覚が違う。フランスの大女優、ブリジット・バルドーがパリ・マッチのインタビューでセクハラ撲滅を訴える#MeToo運動を「ほとんどが偽善者でバカげてる」と非難、話題になってた。もう一人の大女優カトリーヌ・ドヌーブも過剰な抗議行動を批判する書簡を連盟で公開してた。男性には女性を口説く権利がある、とまで言ってのけた。ま、彼女らは彼女らの意見を言ったまでなんだが、セクハラ被害者を傷つけたということで謝罪に追い込まれてたっけ。
俺? 俺は女性へのセクハラは絶対だめだと心から誓ってる。俺がその辺のエロおやじと根本から違うところはね、俺は全世界の女性たちをリスペクトしているってことだ。俺の言葉づかいは悪いけど、でも、ドアもあけるし、荷物も持つ。「嫌だ」って言われることは絶対しないしやらないし言わない。
俺、こう見えても紳士なんすよ。抗議しちゃいやよ~。
ということで、ギャルソンがメニューの書かれた黒板を持ってきて昼の定食を紹介してくれた。セシールは前菜に半熟卵のパッフェを、俺は豚のパテ・アン・クルートと自家製ピクルスを頼んだ。
見てよ。豚のパテ頼んだのに、こんなすごいピクルス瓶が二つもついてきた! 中に入っている自家製ピクルスは、にんじん、黒だいこんに西洋ごぼうとか。伝統的なフランスの味、いや~、日本人にとってのおしんこのような存在かな。セシールにもちょっとお裾分けしといた。見つめ合いながら……。フォ~。
ああ、セクハラなんてしない、俺って紳士なんだからさ。つらいよ、紳士って。
そして、本日のメインは、セシールが豚肩ロースのコンフィと焼き野菜、俺がスケトウダラのロティ、きのこ添えね。トラディショナルな味付けながら、シェフの食材へのこだわりが実に素晴らしい。日替わりの魚料理なのに、皮パリ感の半端ないこと。ソースも申し分なし。シャンパンもワインもめっちゃこだわってる。なのに、驚くほど安いんだよ。一流店並みにうまいのに、安いぞ~! 前菜とメインで27ユーロだ! このクオリティで? しかも、満席なのに、客の8割が男! それもみんな一人で来て食べてる。なぜ? お前ら、ユネスコの職員なのか? それともスパイだったりして……。
「セシール、君はハリウッドのセクハラ撲滅運動についてどう思う? 俺なんか、撲滅されちゃうね」
デザートのババ・オ・ラムと自家製ヴァニラクリームを二人でシェアしながら、訊いてみた。ギャルソンがサバランをナイフで半分に切りわけ、その谷間に、ラム酒をドバドバっとかけてくれた。ああ~、ババオーラム~。クリームは生クリームではなく、少し酸味がありトロッとした食感のエッチな自家製クリームだった。口に入れた瞬間、シェフのこだわり感にしびれちゃったよ。セシールが笑ってる。なに?
「コータロー、私の個人的な意見だけど、あなたの冗談に本気で付き合う女性がいるなら会ってみたいし、あなたのことをセクハラだと告発する人間がいるなら自意識過剰だと思うわ。私から言わせるとあなたは無害よ」
「無害? 俺が? が?」
「ええ、ランチをおごってくれる優しい日本のおじさま以上でも以下でもないでしょ。でも、あなたといると楽しいから好き。それ以上でも以下でもないわ。あなたとベッドインすることはきっと永遠にないんだから」
「フォ~!」
セシールは仕事に戻らなきゃと言い残してそそくさと帰っていき、俺は不敵な笑みをギャルソンたちに向けながら指パッチン、「らでぃっしょん・しるぶぷれ(お会計してよ)」と流ちょうなフランス語で言ってやったのさ。
紳士だかんね。あはは、帰ろっと。
ちゃんちゃん。
Posted by 佐伯 幸太郎
佐伯 幸太郎
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ライター。渡欧25年のベテラン異邦人。ワインの輸入業からはじまり、旅行代理店勤務、某有名ホテルの広報を得て、現在はフリーランスのライター。妻子持ちだが、美しい女性と冒険には目がない。モットー、滅びゆくその瞬間まで欲深く。