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母乳にこだわらないフランス子育て、粉ミルクのススメ Posted on 2019/03/02 尾崎 景都 日本語教師 パリ
赤ちゃんをイメージするとき、真っ先にお母さんのおっぱいを飲んでいる姿が思い浮かぶ。母乳には赤ちゃんの免疫力を高める要素が含まれているらしく、赤ちゃんが母乳を飲んでいるうちは、飲まない場合と比べて病気になりにくいそうだ。
時代と共に変わりつつあるのだろうが、日本では、母乳こそが一番という、いわゆる「母乳神話」が今も根強く残る。実際、その考えが強迫観念となり、いつでも母乳を差し出せるように子供から片時も離れられなかったり、母乳の出が悪くなったりすることに大変なストレスを抱えてしまう母親もいると聞く。母乳で育てるのは立派なことだと思うが、それで母親が辛く思うことがあるのなら、母乳こそが正しいという考え方への固執には首を傾げたくなる。
まだ離乳食を始める前、母乳の出が悪くなっていることに悩んでいたら、それなら粉ミルクを足せばいい、とあっさり言われた。母乳には確かに免疫力を高める効果はあるけれど、母親がストレスを抱えてまで無理に母乳にこだわる必要はない。それに今の粉ミルクには十分な栄養素が含まれているよ、と小児科医に諭され、救われた気持ちになった。
また、フランスは共働き家庭の割合がとても高いので、早いうちから粉ミルクに切り替えて社会復帰の準備をする母親が多く、母乳をやめることへの抵抗感が、社会全体で希薄であると言える。
そういった背景は、粉ミルク業界の発展にも繋がる。フランスは、粉ミルクの種類がとても充実している。というより、選ぶのが大変なほど多い。
まず月齢が0~6ヶ月、6~12ヶ月、12ヶ月~3歳、18ヶ月~3歳に分けられる。そこから更に用途が、吐き戻しが多い赤ちゃん用、母乳からミルクへ移行する赤ちゃん用、下痢をし易い赤ちゃん用、腹持ちを良くしたい赤ちゃん用、コリックの赤ちゃん用、その他挙げたらきりがないほど。そのため、薬局の粉ミルク売り場は大抵かなりの場所を取っている。
逆に日本は、母乳育児を強く推すだけあって、母乳外来があったり、母乳がよく出るマッサージを施してくれる助産院や医院があったりする。それぞれの国が、主張を裏付ける対策を取っているということだ。
かなり早いうちから粉ミルクに切り替えたママに話を聞くと、理由の大半は職場復帰だが、中には「胸の形が崩れるのが嫌だった」という声もある。そんなことを日本で言ったら、母親らしからぬ発言として非難されそうだが、その時の他のママたちの反応は「わかる、確かに気になるよね」という感じ。驚いたので夫にそのエピソードを話すと、フランス人女性らしいなあ、旦那さんだって奥さんがいつまでも綺麗でいてくれたら嬉しいもんね、と笑っていた。
確かに子供を産むと、女性は「母親」になる。だが同時に、現在進行形で「女」である。
子供に人生の全てを捧げるのではなく、子供と共に、パートナーと共に、お互いの人生をより豊かにしようとする。
母親であり、妻であり、女である。自分には自分の人生がある。
フランス人ママの変わらぬ魅力は、こういう考え方からきているのかもしれない。
Posted by 尾崎 景都
尾崎 景都
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パリ第7大学 言語音声学科 修士課程修了後、日本語教師として活動中。夫は料理人。