PANORAMA STORIES

フランスで出産「妊娠生活は驚きの連続!」 Posted on 2017/12/13 尾崎 景都 日本語教師 パリ

私が妊娠してから知ってまず驚いたことは、フランスに「母子手帳」がないこと。
妊娠中も飽くまで、体内に新しい生命が宿った人の身体を診る、という考え方で、子供には産まれてから健康手帳が発行される。個人主義のフランスらしいな、と妙に納得した。

書類大国フランスでの妊娠生活は、やはり書類集めから始まる。大切な手続きとなるのは、妊娠3ヶ月までに行う社会保障(Sécurité Sociale)への申告。まずは、婦人科で妊娠申告書を発行してもらう。これは妊娠証明と同時に、第1回目の3ヶ月検診を受けたという証明書でもあり、家族手当など、公的補助を受けることが出来る社会保障システムのひとつCAF(Caisse Allocations Familiales)への申告にも必要となる。

母子手帳はないが、これら一連の手続きが完了すると晴れてフランスで妊婦として認められる。

社会保障から月検診やエコーなど妊娠中に必要な検査費用の負担があり、さらに、勤めている会社や個人で任意保険に入っていれば、社会保障だけではまかなえない分の払い戻しを受けることが出来る。それに加え、所得制限はあるものの、CAFから出産一時金の支給や幼児養育手当(出生から3歳まで)の支給もあり、妊娠から出産、そして子供が幼稚園に入るまで、国からの手厚い保障が受けられる。
近年、フランスが出産大国と呼ばれるほどになったことも大いに納得できる。
 

フランスで出産「妊娠生活は驚きの連続!」

一方、夫が驚いたのは、周りの人の接し方だったらしい。
お腹も目立ち始めてきたある日、夫とメトロに乗り込むと、派手な服装をした今どきの若者が私を見るなり席を立ち、「マダム、どうぞ」と席を譲った。メトロで若者に携帯電話を盗まれた経験のある夫は、「なんで譲ってくれたの? 意外すぎる!」と大変失礼なことを言っていた。
その後も老若男女問わず、毎回誰かが私に席を譲ってくれた。私が電車に乗った瞬間に数人が席を立ち、席の譲り合戦が始まったり、立っている人が座っている人に、席を譲ってあげたらどうかと助言することもあった。
スーパーのレジに並べば、最前列まで一気に通してくれることも当たり前。しかも、誰一人嫌な顔をしない。
まだお腹が目立っていない妊婦さん自身が、妊娠しているから席を譲ってくれるようお願いする場面を見かけることもあった。

そんな妊婦第一な状況を目の当たりにした夫は、「フランスでは学校教育で、妊婦へ親切にするように教えているに違いない」とまで言い出した。そして夫自身、以前にも増して妊婦や子供連れに対して親切に接するようになり、こうして連鎖していくのだな、と微笑ましく思った。

日本のような「お腹に赤ちゃんがいます」キーホルダーは存在しないが、その必要はない。
フランスにはみんなが積極的に妊婦を守り、また妊婦本人もためらわずに周りの助けを促せる社会が成り立っている。
 

フランスで出産「妊娠生活は驚きの連続!」

そうして、人の助けを借りながら過ごす妊娠生活。
妊娠が進むと、出産にむけて助産師による講習が受けられる。これも社会保障で全額負担される。私は産院で開催されていた講習を受けることにした。
呼吸法、入院前の準備、授乳についてなどテーマ別に分かれており、1回60分、全8回ほど、少人数制のグループ講習だった。初産で何の知識もない私にとっては、とても勉強になった。

予約時に「パパも是非参加して下さいね」と言われて驚いたが、実際講習には夫婦で参加している人もたくさんいた。様々な家族の形が存在するフランスならではと言うべきか、助産師が決して「ご主人」と言わずに「子供のパパ」や「パートナー」という呼び方をするのが印象的だった。
私も夫を誘ってみたが、「フランス語で講習……」と、明らかに嫌そうな顔。その後、講習が平日しか開催されないと分かると「残念、参加したくても仕事だから行けないね」と調子良く笑顔で返された。
仕方ない、ちょっと古いけど、男は仕事、女は家庭! 

陣痛促進、無痛分娩、骨盤底筋……。知らないフランス単語だらけの講習後、私は毎度、必死に辞書と向き合った。
 

フランスで出産「妊娠生活は驚きの連続!」

 
 

Posted by 尾崎 景都

尾崎 景都

▷記事一覧

Keito Ozaki
パリ第7大学 言語音声学科 修士課程修了後、日本語教師として活動中。夫は料理人。