PANORAMA STORIES

” q.b. ” レシピのないレシピ帳 ~星博士のお菓子~ Posted on 2017/11/05 八重樫 圭輔 シェフ イタリア・イスキア

9月に入って最初の週末。
レストランを後にして時計に目をやると、午前2時を指していた。いつもの坂道を登って家に辿り着き、とりあえず鞄やら衣服やらを脱ぎさって一息つく。例年ならば、まだまだ目が回るほど忙しい時期だけれど、8月末に起きた地震の影響で随分と落ち着いた週末だった。
久々に雨が降ったせいもあって風が涼しく、少し先の波のうねる音まで運んでくる。通りに面した窓際の細いカーテンがひらひらと、天井近くまで舞い上がった。

そしてふと思った ”ああ、今シーズンも何とか乗り切ったな” と。



” q.b. ” レシピのないレシピ帳 ~星博士のお菓子~

9月の下旬、いつもの坂道から夜空を見上げると、5角形の星座が目に留まった。
あれは…ぎょしゃ座だ。1等星のカペラが、街灯りで仄白い低空で輝いている。もう少しすれば、華やかな冬の星座たちを引き連れて、もっと高い位置に見えるようになるのだろう。
小学生の時は”星博士”だった。もう殆ど何も覚えていないけれど、ギリシア神話の本や星座表を夢中で眺めていたあの高揚感だけは、今でも胸に残っている。

そしてカレンダーをまた1枚めくる。
朝晩と少し肌寒くなってきたけれど、日中は汗ばむような陽気の日もあり、まだ半袖を着ている。
ほんのひと月前までは、満開のハイビスカスのように咲き誇っていたビーチパラソルたちも今は最後の海水浴を楽しむ人々の上に、ひっそりと夏の名残を落としているだけだ。

地球カレッジ

” q.b. ” レシピのないレシピ帳 ~星博士のお菓子~

10月最初の週末は予想外にとても忙しかった。
午前1時40分、人気のない街をすり抜けて家へと急ぐ。いつもの坂道からは、遂にオリオン座が見えるようになった。毎年この星座を見つけると、ドキッとしてしまう。
もうそんな時期なのかと、はっと我に返るように。それは僕にとって、静かな季節の始まりを告げる合図のようなものだ。
リゾートという優雅な水鳥の下で必死に足かきをする日々は終わり、次第に自分の時間が持てるようになる。
何かに挑戦したり、小旅行をしたり、友達と食事をしたり、家族でのんびりしたり……
いわば心のリゾート期間なのだ。この期間中にしっかりと充電をして、次のシーズンを迎える。
もう何年もこのサイクルで過ごしている。
 

” q.b. ” レシピのないレシピ帳 ~星博士のお菓子~

今年もいよいよ幕を開けるこの季節。
”さあ何をしようか” そう考えた時、すでに心は旅立っているはず。

今回はそんな時間を利用して、友人のMAIKE(マイケ)と一緒に、彼女の生まれ故郷、北イタリアはBolzano(ボルツァーノ)地方のお菓子を作ってみたのでご紹介したいと思います。

※タイトルのq.b.とは適量を意味するイタリア語 quanto basta(クアント バスタ) の略です。
細かいことは気にせず臨機応変に,あなた次第のレシピにして頂けたら、という思いを込めて。



” q.b. ” レシピのないレシピ帳 ~星博士のお菓子~

~ボルツァーノ風りんごのフリッテッレ~



<材料>

☆りんご 2個           ☆砂糖   大さじ1杯
☆小麦粉 65グラム        ☆レモン汁 q.b.(適量)
☆牛乳  65ml          ☆塩 ひとつまみ
☆サラダ油 大さじ1杯        ☆シナモンシュガーq.b.
☆卵1個(卵白と卵黄に分けておく) ☆バニラ q.b.
☆揚げ油 q.b.

<下ごしらえ>

りんごは皮をむき、芯を抜いて5mm~1cmの輪切りにし、レモン汁をかけておきます。りんごの芯抜き器があれば便利ですが、なくても平気です。今回も使っていません。

<作り方>

①卵白に砂糖大さじ1杯と塩ひとつまみを入れ、角がたつ位まで泡立てておく。
②違うボールに小麦粉と牛乳を入れてハンドミキサーで混ぜる。
③そこにサラダ油、卵黄、バニラを加える。
④⓷のボールに泡立てておいた卵白を、泡が消えないようにヘラなどで少しずつ加えて混ぜる。
⑤りんごを上記の衣にくぐらせて揚げる。こんがりと色よく揚がったらシナモンシュガーをまぶして出来上がり!         

” q.b. ” レシピのないレシピ帳 ~星博士のお菓子~

” q.b. ” レシピのないレシピ帳 ~星博士のお菓子~

” q.b. ” レシピのないレシピ帳 ~星博士のお菓子~

おいしい紅茶とともに 午後の一息タイムにいかがでしょうか?

ボルツァーノではベリー系のジャムを添えて食べるそうです。
マイケの故郷ボルツァーノの町はイタリア最北部のトレンティーノ=アルトアーディジェ州という 所にあり、オーストリアとスイスの国境に面しています。歴史的には南チロルと呼ばれていた地方で今でも非常に色濃くドイツ語圏の文化が残っている所です。
りんごの名産地でもあり、このお菓子もボルツァーノでは非常にポピュラーなものです。
各家庭ごとにそれぞれのレシピがあり、リキュールを加える人、卵白をメレンゲにせず全卵で加える人、ベーキングパウダーを加える人など様々なようです。

ちなみに今回の僕の発見!
もしも衣が余ったら、フライパンに油かバターを少しぬって焼けばとっても美味しいパンケーキになりましたよ!
あなたもぜひ自分なりにアレンジして ”我が家のりんごのフリッテッレ” を揚げてみてくださいね。
 

” q.b. ” レシピのないレシピ帳 ~星博士のお菓子~

自分流×帝京大学



Posted by 八重樫 圭輔

八重樫 圭輔

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Keisuke Yaegashi
シェフ。函館市生まれ。大学在学中に料理人になることを決め、2000年に渡伊。現在は家族とともにイスキア島に在住。