PANORAMA STORIES
q.b.レシピのないレシピ帳 ~エコハートの日々~ Posted on 2019/01/26 八重樫 圭輔 シェフ イタリア・イスキア
冬のイスキア島はオフシーズン。レストランもホテルもお土産屋も大半が休業中で、通りを行き交うのは地元の人ばかりです。クリスマス休暇の束の間の賑わいもイルミネーションも、1月6日のエピファニア(公現祭)まで。
今、街はまた静けさに包まれて、ショウウィンドウや軒先に取り残された飾り付けが、春を待ちわびる草木のようにひっそりと佇んでいます。
「バカンスはどこかに行くの?」なんて聞かれることも多いこの時期ですが最近は決まって「ちょっと緑の島(イスキア島の別名)まで」と答えることにしています。
流行りの地中海クルーズやスキー旅行も魅力的ですが、素顔のイスキア島で何気ない日常を過ごすのもまた幸せな事だと思うようになりました。
無事に終わったシーズンを省みたり、今年の抱負を描いたりする充電期間でもあります。
イタリア人、特に南イタリア人は概して陽気でおしゃべりでいい加減で、人情に厚く、それでいて自分勝手という何とも愛すべき性格をしています。その根底にあるのは何事をもエネルギーに変え、最終的には笑い飛ばしてしまうようなおおらかさと精神力。
彼らの考え方はある意味とてもエコロジカルです。
一歩外に出れば、役所だろうがスーパーだろうが日本ではありえないような理不尽なことが起こりえるのがイタリア。長年その中で翻弄されつつも、時には肩の力を抜き、時には適当に、ポジティブに生きるという事を学んだような気がします。
移民が多い土地柄、様々な国籍の人たちと働く機会があり、去年だけでもチュニジア、セネガル、チリ、ウクライナ、ドミニカ共和国出身の人たちと仕事を共にしました。肌の色も宗教も文化も年齢も違う彼らをチームとしてまとめるには、細かなことにイライラなどしてなどいられません。人それぞれ性格も環境も違うと考えれば、余裕も思いやりも自然と生まれるもの。
彼らには仕事は目で盗み、自分で考えながら学んでほしいと思っているので基本的には口うるさくしないのですが、時々「何事も自分の経験になるからね、無駄だと思わずにポジティブに。」なんて言った後、ああ何だかおじさんくさくなったなと我ながら思う僕なのでした。やがて冬眠から目覚め、再び観光シーズンを迎えるイスキア島。
今年もたくさん躓いて、悩んで、笑って、エネルギーの元には事欠かないはずだから、ゆっくりと自分のペースで歩きたいと思います。
さて、今回ご紹介するのはナポリ地方のとてもポピュラーなドルチェ(お菓子)、トルタ・ カプレーゼです。あくせくとした世の中、ついついストレスをため込んでしまったという時は、紅茶やコーヒーと共にドルチェを食べて一息つくのも良いですよね。
トルタ・カプレーゼ (カプリ風ケーキ)
<材料>
★チョコレート 125g
★皮つきアーモンド粉 200g(50~70gを好みでクルミやヘーゼルナッツに
(粗挽き) 置き換えることもできます)
★グラニュー糖 100g
★無塩バター 100g
★卵 3個(卵白と卵黄に分けておきます)
★牛乳またはラム酒やブランデーなど好みのリキュール q.b.(適量)
※アーモンドはオーブンなどでから入りしてからフードプロセッサーで粗挽きにします。フードプロセッサーがない場合は“アーモンドローストパウダー”とインターネット上で検索すると手頃なものが見つかりました。
<作り方>
①チョコレートを刻んでバターと共に湯煎で溶かしておきます。
②卵白をハンドミキサーなどで泡立てます。途中でグラニュー糖をスプーン1杯分加えて(上記の分量内)さらに泡立ててメレンゲにしておきます。
③ボールに卵黄とグラニュー糖を入れ、ふんわりと白っぽくなるまでハンドミキサーでよく混ぜ合わせます。
④湯煎で溶かしたチョコとバターにアーモンドを加え、③のボールに入れて均一になるまで混ぜ合わせます。
ここに小さなコップに半分程度の牛乳、または好みのリキュールを加えます。
⑤最後に、メレンゲを数回に分けてゴムベラなどでゆっくりと加えて混ぜ合わせます。
⑥24cmの型にバターを塗り、小麦粉をふるいます。生地を流し入れ、170度のオーブンで約40分焼きます。焼き上がったらしばらく常温で置いて冷まし、粉砂糖を振ります。ホイップクリームやバニラアイスなどを添えるとよく合います。
※中はしっとりとしているのが理想ですので、ちょっとまだ生焼けかな? という位でオーブンから出すのが良いです。温度と焼き時間はオーブンによって違うので目安です。型にバターと小麦粉の代わりにオイルスプレーなどを使えば、グルテンフリーのお菓子として提供することもできます。
カプレーゼというとトマトとモッツァレラチーズのサラダを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、こちらではお菓子のカプレーゼも大変ポピュラーです。
一説によると、この素朴なお菓子は100年ほど前に、カプリ島のコックがうっかり小麦粉を入れるのを忘れたことから生まれたと言われています。それがたちまち大評判になり、今やカンパーニア州を代表する銘菓の一つとなっています。
まさにイタリアらしいエピソードですね。家庭やレストランによってレシピも様々ですので食べ比べてみるのも面白いかもしれません。それではまた次回、普段着の食卓でお会いしましょう。
※タイトルのq.b.とは適量を意味するイタリア語 quanto basta(クアント バスタ) の略です。細かいことは気にせず臨機応変に、あなた次第のレシピにして頂けたら、という思いを込めて。
Posted by 八重樫 圭輔
八重樫 圭輔
▷記事一覧Keisuke Yaegashi
シェフ。函館市生まれ。大学在学中に料理人になることを決め、2000年に渡伊。現在は家族とともにイスキア島に在住。