PANORAMA STORIES
q.b.レシピのないレシピ帳~アーリオ オーリオ エ ペペロンチーノ~ Posted on 2022/07/07 八重樫 圭輔 シェフ イタリア・イスキア
イタリアでは厳しい暑さが続いており、街によっては最高気温が40℃を超えるところもでてきています。ここイスキア島も例外ではなく、日曜37℃、月曜36℃、火曜日38℃と、予報を見るだけでめげそうになる中、サウナのような厨房で汗を流して働いています。シーズン中はとにかく体力勝負なので健康管理には気を付けなければいけません。
皆さんもその日の体調や天候にあったものを食べて栄養をしっかりとってくださいね。
さて、このシリーズではイタリア人が普段の食卓で食べている、日本ではあまり馴染みのない料理を中心にご紹介しています。僕の個人的な好みもあって地味な一品が多いのですが,有難いことに挑戦してくださる方も結構いらっしゃるようで、うれしい限りです。
しかし、今回は珍しくメジャー路線!日本ではいわゆるペペロンチーノとして親しまれている、あの定番パスタをご紹介したいと思います。ご存じかもしれませんが正式名称はスパゲッティ アーリオ オーリオ エ ペペロンチーノで、直訳するとニンニク、オイル、そして唐辛子のスパゲッティ。イタリア料理の基礎とも言われるこのパスタは、素朴だからこそ伝えるのが難しく、そしていつもは目分量と勘で作っているので、まさにレシピのないレシピと言えるかもしれません。うちのレストランではメニューには無いものの、リクエストがあれば作ることもありますし、賄では頻繁に登場する一皿です。しかし思い返してみると、もうしばらくの間、外食の際にペペロンチーノを注文した記憶がないことに気づきました。他の店ではどんなペペロンチーノを出しているのだろう?俄然興味が湧いてきた僕は休日に食べ歩きをすることにしました。
まず選んだのは、この春に友人夫婦がオープンした、田舎風の雰囲気が魅力のレストランです。正直、ペペロンチーノを出しているのか不安でしたが、メニューを見て思わず「おっ」
と声が出ました。今回、僕がバリエーションの一つとして紹介しようと思っていた、パン粉入りのものがあったのです。もちろん迷わずそれを注文しました。イタリアのパン粉はさらさらとした砂状のものですが、それを仕上げにササっと混ぜればこれがまた美味しいのです。またはタラッリというドーナツ状の乾パンを砕いたものを入れることもあります。
メインにはトマト、赤ワイン、玉ねぎで煮たムール貝を頼んでランチを堪能しました。
次の週は、毎年必ず家族で行く、近所の浜辺にあるレストランへ。ここは眺めも最高で、料理のボリュームも昔ながらの大盛りを維持している数少ない一軒です。
前菜にはトマトとモッツァレッラのブルスケッタを頼みましたが、相変わらずの量と美味しさで幸せな気分に。パスタが運ばれる前に「パルミジャーノチーズは中に入れますか」と聞かれたので「別にしてください」と答えました。日本ではわかりませんが、こちらではペペロンチーノにチーズをかける人も結構いて、僕も好きです。こちらも安定の美味しさでした。
こうして2軒のレストランでペペロンチーノを食べましたが、シンプルながらもやはり店の個性というものが出る気がします。僕が注目していたのはニンニクの切り方や唐辛子の入れ方、全体的な油の量、第4の主役ともいえるイタリアンパセリの使い方などでした。これからご紹介するレシピの中でもその点に注意して読んでみて下さいね。それでは早速どうぞ。アーリオ オーリオ エ ペペロンチーノ!
<アーリオ オーリオ エ ペペロンチーノ>
材料
○スパゲッティ 180~200g ○ニンニク 中1片 ○唐辛子 1本
○オリーブ油 スプーン4杯程 ○イタリアンパセリ q.b.(適量)
※スパゲッティは個人的には細麺よりも太めの方がおすすめです。日本でも手に入るデ チェッコ(De Cecco)社ならば12番などが良いでしょう。オリーブ油はエクストラバージンではなく、普通のオリーブ油です。ニンニクの近くにあるのがタラッリです。
作り方
①鍋にお湯を入れ、約10%の塩を加えて沸騰させ、パスタを茹で始めます。
(ペペロンチーノはゆで汁が味付けの決め手になります。少し白濁した位のゆで汁が必要ですのでソースよりもまずはパスタの投入から始めます。)
②フライパンににオイルを入れて唐辛子とニンニクを加え、弱火で炒め始めます。
(ニンニクの切り方は人によって様々ですが、個人的には粗みじん切りが良いと思います。粗みじん切りだと味がきつくなりすぎず、上品な風味がよく出ると思います。トウガラシは1本ごと入れましたが、辛いのがお好みの人は割って種を出したりして調節してください。)
③ニンニクの周りがチリチリと泡立ち色が変わり始めたら、火を中火にします。ニンニクがきつね色になったら、みじん切りにしたパセリを一つまみ加えて5秒ほど待ち、フライパンを少し火から離してお玉一杯位のゆで汁を加えます。この時にジュウっ!と一気に乳化させるのが大事です。ジュウっとならなかったら火が弱いので次回からもう少し強めにしてください。木べらや菜箸などで混ぜてトロっとなったら火を止めます。
④パスタがすこし芯のある位であげます。完全にお湯を切らない方が良いです。ゆで汁はとっておきます。
⑤フライパンに入れて強火でぐるぐると混ぜながら絡めていきます。パスタの種類や茹で具合にもよりますが、ゆで汁をお玉一杯くらい加えつつ仕上げます。パスタに程よくソースが絡んでいる状態にします。
パン粉を加える場合は最後に火を止めてから軽く混ぜます。お皿に盛って出来上がり!
好みでパルミジャーノをかけて頂きましょう。
(タラッリ入りペペロンチーノ。奥はチーズ入り)
シンプルでいながら人それぞれ作り方が違うペペロンチーノ。けれども美味しい!と感じるのは、食べた瞬間にギトギトでもなくべシャべシャでもなく、ジュワっとしたパスタに絡んだソースが口に広がるものです。今回はトロっだのジュウっだのチリチリだのといった説明が多くなりましたが伝わりましたでしょうか?厳しい夏の暑さで食欲が出ないこともあるかと思いますが、そんな時は素朴で香ばしいこのパスタを試してみて下さいね。最後におまけ。夏の定番飲み物に白ワインに黄桃を入れたものがあります。こちらではペルコーカと呼ばれる種類を使いますが普通の黄桃でもよいです。適当な大きさに切った桃を白ワインに入れて1時間ほど冷やしておくだけ!ぜひお試しくださいね。それではまた、普段着の食卓でお会いしましょう!
※タイトルのq.b.とは適量を意味するイタリア語quanto basta(クワント バスタ)の略です。細かいことは気にせず臨機応変に、あなたなりのレシピにして頂けたらという思いを込めて。
Posted by 八重樫 圭輔
八重樫 圭輔
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シェフ。函館市生まれ。大学在学中に料理人になることを決め、2000年に渡伊。現在は家族とともにイスキア島に在住。