PANORAMA STORIES
q.b.レシピのないレシピ帳 ~カーニバルのお菓子 キャッケレ~ Posted on 2021/02/09 八重樫 圭輔 シェフ イタリア・イスキア
新しいカレンダーの1枚目をめくり、暦の上では立春を迎える頃、我が家のキッチンにもようやく陽が差し込むようになります。それは、雨が多くて物寂しいイスキア島の冬も終わりに近づいてきたという知らせです。
外出制限のため、初めて自宅で過ごした大晦日も、街の伝統行事がすべて中止されたクリスマスも、だんだんと遠い出来事のように感じられてきました。
カンパーニア州では、1月中旬にようやく飲食業の営業が許可され(但し店内飲食は午後6時まで)僕も仕事を再開しましたが、もともと閑散期であるうえに移動制限で外部からの観光客が来ないので、いわゆる開店休業状態です。
けれども、冬枯れの植木にもやがて若葉が芽生えるように、少しずつ日常が戻ることを信じて、じっと春を待っています。
さて、この時期の大きなイベントと言えば、バレンタインデーと並んでカーニバルがあります。皆さんも、仮装をした人々や巨大な山車が街を練り歩くお祭りの様子をテレビなどで見た事があるのではないでしょうか。
イタリアでは、ヴェネツィアやヴィアレッジョのカーニバルなどが有名ですが、本来はどのような意味を持つ行事なのでしょう。
レシピをご紹介する前に少し触れてみたいと思います。
カーニバルはキリスト教の最も重要な行事である復活祭(イースター)と深い関係があります。復活祭は移動祝祭日で「春分の日の後、最初に迎える満月の次の日曜日」という少しややこしい決まりの元に(3月22日から4月25日の間で)毎年日付が変わります。
そして、復活祭の前には40日余りに渡る「四旬節クァレジマquaresima」という、キリストの受難と復活を思い、禁欲しながら過ごす斎戒期間があり、この四旬節が始まる前に思う存分食べて遊んでおこうというのがカーニバルです。
その起源や語源については諸説あるので、こう一言で片づけてしまうと少し語弊があるかもしれませんが、いずれにせよ現代では宗教的というよりもお祭り的な色合いが強い行事といえるでしょう。
カーニバルと呼ばれる期間は実際は2週間程ありますが特に最終日は「肥沃な火曜日マルテディ グラッソ martedÌ grasso」と呼ばれ、お祭りムードも最高潮に達します。
この日には翌日から始まる四旬節を前に、ダイエットやカロリー計算とはおおよそ無縁なカーニバルの料理が家庭やレストランでふるまわれます。
(ミートボールやリコッタチーズ、ゆで卵やサラミ類が入ったナポリ風ラザニア)
今年は各地でイベントの中止や規模の縮小、あるいはインターネットで配信というところもあるようですが、コロナにもイタリア人の食欲だけは抑えられないようで、この時期ならではの食べ物の話題をあちこちで耳にします。
今回はその中から、とても素朴で簡単な揚げ菓子のレシピをお届けしたいと思います。これは呼び名や形が地方により異なるものの、イタリア全土で食べられるカーニバルを象徴するお菓子で、カンパーニア州では「キャッケレchiacchiere(おしゃべり)」と呼ばれています。
今は旅行も思うようにできない時ですが、キャッケレをつまみながら世界各地のカーニバルに思いをはせてみてはいかがでしょうか。
※タイトルのq.b.とは適量を意味するイタリア語quanto basta(クワント バスタ)の略です。細かいことは気にせず臨機応変に、あなたなりのレシピにして頂けたらという思いを込めて。
カーニバルのお菓子 キャッケレ
★材料(4-5人分)
○薄力粉 300g ○砂糖 30g ○白ワイン(あれば発泡性のもの)30g
○卵 2個 ○オリーブ油20g ○塩一つまみ ○バニラ q.b.(適量)
○レモン又はオレンジの皮をすりおろしたもの q.b. ○粉砂糖(飾り用)q.b.
○揚げ用油 q,b,
(補足)オリーブ油の代わりに溶かしバター、白ワインの代わりにラム酒やグランマニエ、グラッパ、ストレーガなどお好みのリキュールを入れても良いです
★作り方
①台の上で薄力粉と砂糖をざっくりと混ぜ、こぶしで真ん中にスペースを作って残りの材料を入れます。(やりにくい方はボールを使いましょう)
②フォークで中の材料をよく混ぜ、少しずつ薄力粉と合わせていきます。(中の材料が流れ出ないよう、内側から徐々に)
③材料が大体合わさったら、弾力のあるやわらかめの生地になるまで手でよく捏ねます。
ラップにくるんで涼しいところで30分休ませます
④軽く打ち粉をしながら麺棒かパスタマシーンで薄く延ばします。始めは幾度か3つ折りにしながら延ばしていき、最終的には2ミリ程の厚さにします。
(延ばすのに慣れていない方は、生地を3等分くらいにすると良いでしょう)
⑤食べやすい大きさの長方形に切り分け、真ん中に切り込みを入れます。切り込みに片端をくぐりさせて手綱こんにゃくのような形にしても良いです。
⑥160度に熱した油できつね色になるまで揚げ、油を十分に切ります。仕上げに粉糖をたっぷりと振るって出来上がりです!
簡単に言ってしまうと
「全ての材料をよく混ぜて捏ねたらラップでくるみ、30分休ませる。薄く延ばして食べやすい大きさに切ったら160度の油で揚げ、仕上げに粉砂糖を振るって出来上がり!」です(笑)
この時期のお菓子屋さんでは、様々な種類のキャッケレがショーケースを賑わし、一部をチョコでコーティングしたものなども人気があります。おしゃべりをしながら食べているとついつい手が伸びて気が付いたら無くなっていた、なんてことも。
豪華な絶品スイーツも魅力的ですが、たまにはこんな素朴なお菓子で一息つくのも良いものですね。それではまた次回、普段着の食卓でお会いいたしましょう。
Posted by 八重樫 圭輔
八重樫 圭輔
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シェフ。函館市生まれ。大学在学中に料理人になることを決め、2000年に渡伊。現在は家族とともにイスキア島に在住。