PANORAMA STORIES
q.b.レシピのないレシピ帳~リモナータとグラニータ~ Posted on 2021/08/16 八重樫 圭輔 シェフ イタリア・イスキア
イスキア島で迎える21回目の夏。
ここへ来た当初は暑さに閉口していた北海道育ちの僕も、次第に40℃近くまで上がる気温に耐えられるようになりました。昨シーズン同様、Covid-19の影響を受けてレストランの本格的な開店は例年よりだいぶ遅れましたが、比較的すぐ軌道に乗ることができました。そして最盛期の8月に入り、今年もとうとうここまで来たかという感慨と共に、毎日奮闘しているところです。
数分ごとに幾つもかけた携帯のアラームを、眠気と闘いながらリセットすると、いつもの朝が始まります。顔をバシャバシャと洗い、適当に服を選んでサンダルを履き、鍵とマスクがポケットに入っているのを確認したら10分ほどで準備は完了。賄を食べるのは深夜なうえに、帰宅後も何かしらつまむので朝食はとらず、コップ半分位の水を飲むだけです。「行ってきます」と玄関の扉を閉めたら、レストランに着いたらやること、仕入れなければいけないものなどを、ぼうっとした頭で考えて歩き始めます。時折ご近所さんや知り合いに会って挨拶を交わしたり、海に向かう家族連れとすれ違いながら。
入り組んだ小路の幾つかは風の通り道になっていて、そこで僅かに足を緩めて深呼吸し体にエンジンをかけていきます。町の中心の広場には、カフェで遅い朝食を楽しんだり、優雅にカクテルの氷をストローで回す観光客たち。その傍らには買い物袋を下げた地元のシニョーラやベンチで談笑するお年寄りがいて、通りでは何台かのトラックが、飲食店やスーパーに食料品などを搬入しています。リゾートと日常が入り混じったいつもの夏の風景。知らない人から見たら僕も日本人観光客に見えるのかな、なんて思いながら再び小路に姿を消し、レストランへ急ぎます。
港へ続く階段を下りると真っ青な海が広がり、砂浜には色とりどりのビーチパラソルが咲いています。ヨットのマストがゆったりとメトロノームのように揺れ、ボートがさざ波のリズムにのっているのを見ると、夏のバカンスとはさぞかし楽しいんだろうなあ、とちょっとうらやましい気分に。でも、こんなに忙しいのも今だけ、さあ仕事仕事!と切り替えて最後の50メートル程を、高度を増す太陽に向かって歩きます。何度か空を見上げて目を閉じると、鮮やかなオレンジ色が広がり、瞼はほんのりと暖かく、今日も頑張ろうという気合が入ってお店に着くのです。
真夏の厨房はまさにオーブンの中のように暑く、特にコンロ周りでは汗が滝のように流れてきます。こまめな水分補給を心がけていますが、その中でもたまに飲むリモナータ(レモネードの事)は格別な美味しさです。イスキア島のレモンは皮をほんの少しこするだけで素晴らしい香りがしますが、そのレモンを使ったリモナータやグラニータ(イタリアのかき氷)は子供から大人までみんな大好きな、夏の風物詩の一つとなっています。今回はとっておきのレシピをご紹介しますので、美味しいレモンが手に入った時はぜひ試してみて下さいね。
<リモナータ>
レモンシロップの材料 (約20~25杯分)
○レモン汁 280g ○レモンの皮をすりおろしたもの 大匙3杯ほど
○グラニュー糖 500g ○水 750㎖
作り方
大きめの鍋に水、レモンの皮、グラニュー糖を入れて火にかけ沸騰させます。
沸騰したら5分ほど弱火で煮て火を止めます。
レモン汁を加えて蓋をし,半日ほどおいて冷まします。
濾して清潔な瓶に入れて冷蔵庫で保管します。
リモナータはコップに上記のレモンシロップ40~50㎖を入れ、よく冷えたミネラルウォーター(または普通の水)を100㎖程足します。氷を入れたり、炭酸のミネラルウォーターで割るのもおすすめです。お好みで濃さは加減してください。可愛い瓶に入れて贈り物にしても喜ばれますし、日持ちがするので冷蔵庫にあると急なお客様が来た時にも便利です。
<レモンのグラニータ>
グラニータとはイタリアのかき氷で、日本のものよりも、じゃりじゃりとした感じの氷です。また、氷にシロップをかけるのではなく、味のついた氷を砕くところが違いでしょうか。夏になるとレモンをはじめ、スイカ、ミント、イチゴ、コーヒーなど様々な味のものが街角やバールで売られます。先ほどのリモナータを容器に入れて凍らすだけで、家庭でも簡単にグラニータを楽しむことができます。
完全に凍る前に何度かかき混ぜると、味が均一になりますし食感も良くなります。出来上がったらガリガリとフォークなどで細かく砕いて器に盛り付ければ出来上がり!まだ少しの間暑さが続きますが、体調に気を付けて元気に乗り切ってくださいね。それではまた次回、普段着の食卓でお会いしましょう。
※タイトルのq.b.とは適量を意味するイタリア語quanto basta(クワント バスタ)の略です。細かいことは気にせず臨機応変に、あなたなりのレシピにして頂けたらという思いを込めて。
Posted by 八重樫 圭輔
八重樫 圭輔
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シェフ。函館市生まれ。大学在学中に料理人になることを決め、2000年に渡伊。現在は家族とともにイスキア島に在住。