PANORAMA STORIES

闇から光へ 〜タイのサッカー少年救出記〜 Posted on 2018/08/01 米山 一也 教員 タイ バンコク

雨が降り続き、洞窟の水位は静かに上がっていった。少年達は追い込まれていた。2週間以上もそこに閉じ込められていたからだ。さらに、彼らにはまともな食料や水もなかった。救助は時間との戦いだった。だから、救援のダイバーの一人が命を落としても、その救出活動は続けられた。

「ダイバーの死を無駄にしない。私達は決してこの困難に屈しない。少年達を全員助けるまでこの救出活動を続ける。」

救助を主導したタイネービィーシールドのスポークスマンが述べた通り、そのミッションは続けられた。そして、今月の7月10日、17日間に渡って洞窟に閉じ込められていた12人のタイの少年とそのコーチは全員無事に救出された。保護された少年達はすぐに病院に送られ、治療を受けたが、皆比較的元気な様子だ。
 

闇から光へ 〜タイのサッカー少年救出記〜

このレスキューミッションが成功した理由はいくつもあるが、その第一の理由はタイの海軍と各国から来たダイバーとの効果的なコラボレーションだ。少年達の危機が伝えられると、タイ当局は世界各国に支援(洞窟ダイバーや遭難救助の専門家の派遣等)を要請し、それに世界が応えた。
少年達を救出した当日、4人のタイ ネービィーシールドのダイバーと英豪加のインターナショナル ダイバーがその作戦を先導し、ベルギー、フィンランド、デンマークなどを含む多くのボランティアのダイバーが食料や水、酸素ボンベの運搬をサポートした。雨期で増水した洞窟を進み、少年達が避難している場所まで到達するには困難を極めたが、彼らは計画を綿密に立て、それを粘り強く実行に移した。
このレスキュー オペレーションの司令塔であるチェンライ県の前知事ナロンサック氏はその記者会見で「タイ政府、チーム タイランドと外国のダイバーによる効果的なコラボレーション、それに世界中からの温かい支援により、今夜私達は実施不可能と考えられていた事を成し遂げた」と述べ、ダイバー及び関係者に謝意を表した。
 

このミッションが成功した第二の理由は地元のサポートだ。少年達を救助するため、地元市民は支援を惜しまなかった。洞窟の近くにあるクリーニング店の女性経営者は「救助に当たっている警察官やレスキュー隊員が泥だらけになった制服を4日間も着替えていない」という話を聞くと、無料で彼らの制服を洗濯した。隊員達は早朝に制服が必要なので、彼女は毎晩夜の9時に汚れた服を回収しに行き、翌朝の4時に洗濯した服を届けた。仕事の後毎日、彼女の店の人々は何百という制服を深夜までかけ洗濯し、アイロンした。従業員の一人は「ミッションが成功して欲しい。私は直接少年を洞窟から連れ出す事は出来ないが、救助をしている人々の服を洗う事が出来る」と言った。

地元のあるバイクタクシーのドライバーは、洞窟で働くボランティアーの送迎を無料で請け負った。彼は洞窟に閉じ込められた少年の一人を個人的に知っていた。「少年は私達のコミュニティーの大事な一員だ。レスキューオペレーションは困難を極めていると聞いた。だから、私も少しでもいいから力になりたい」と述べた。

闇から光へ 〜タイのサッカー少年救出記〜

洞窟の近くに住むあるイスラム教徒のグループは、救助活動を行っている人々のために毎日、無料で何百という食事を届けた。
「この件について、私達のグループはタイ国中から多くの寄付を受け取った。だから、それを使って料理を作り、援助活動を支援しているのです。私達はイスラム教徒だけど、子供を助けるのに宗教は関係ありません。ミッションが上手くいくように願っています。大丈夫、子供達は強いから必ず無事に帰ってくると信じています」と笑顔で語った。
コラボレーションとサポート。この事件を通じ、「微笑みの国」の住人達はその深い思いやりと強い連帯感を見せた。
「少年達は私達のコミュニティーの大事なメンバーだ」という言葉が私には特に印象に残った。 
 

最後に、不幸にも亡くなったダイバーの妻のコメントを紹介したい。深い悲しみの中にいるにもかかわらず、彼女の言葉も又亡き夫への愛情と感謝、思いやりで満ちていた。                    

「夫は日頃から、進んで人助けやチャリティーに参加していました。彼はいつも他人にやさしく、私達の事も本当に良く気遣ってくれました。夫は私のヒーローであり誇りです。今、悲しいかと聞かれたら、死にたいぐらい悲しいです。でも、私はまだ生きています。私は夫の事を誇りに、彼が亡くなった悲しみに立ち向かいたい。なぜなら、夫はいつも、私達はいつ死ぬか分からないから、毎日を大事に一生懸命生きようと言っていたから」
 

Thai cave: Wife and father mourn ‘hero’ diver – BBC News

 
 

Posted by 米山 一也

米山 一也

▷記事一覧

日本の大学を卒業し、オーストラリアの大学で教員免許を取得し、現在はタイのバンコクのインターナショナルスクールで働いています。今年でタイ生活が22年になりました。家族は4人。2人の娘がいます。