PANORAMA STORIES
クリスマス イン ブルー Posted on 2017/12/26 米山 一也 教員 タイ バンコク
12月のバンコクは、1年で一番過ごしやすい季節。日中はそれでも30度を超えるが、日差しはかなり優しくなり、朝晩の気温は20度ぐらいまで下がる。朝のシャワーが肌寒く感じるくらいだ。
私の勤務しているインターナショナルスクールでは、校門の前に大きなクリスマスツリーが飾られ、夕方、そのイルミネーションが点灯すると、クリスマスのムードが一気に深まる。
学校では連日、クリスマスコンサートやパーティーが開かれ、学生たちは待ちに待ったクリスマスを祝う。
しかし、12月は楽しい事ばかりだけではない。私たち教員にとって12月は「決断の月」でもある。
私が務める学校の契約期間は2年で、新しい契約を提示された教員は12月1日までに書類にサインをしなければならない。契約書にサインしない場合、その1週間前後には自分の仕事の募集広告が “vacants” という文字と共にウェッブサイトや新聞に掲載される。
契約を更新しなかった教員はとても不安な気持ちでクリスマスを迎えることになる。次の仕事を見つけなければ、半年後の7月には無職になってしまうからだ。
子供がいる場合は特に大変だ。子供の学校はもとより、新しい赴任国、勤務する学校のタイプ(アメリカ系かイギリス系かなど)、待遇、住居など全てを募集広告片手に決めなくてはならない。世間がクリスマスや新年を祝うのを横目に自分の履歴書をアップデートし、推薦状を頼み、新しい学校を探し始める。
インターナショナルスクールの職探しは短期決戦。ジョブフェアーは1月に始まり、4月ぐらいまでには大方のポジションが埋まってしまう。一般的に、有名な学校の良い条件のポジションはすぐに無くなり、9月の新学期に向け、遅ければ遅くなるほど、仕事を見つける競争は激化する。
それでも、特に慌てる風でもなく、クリスマス休暇を家族や友人と共に楽しみ、旅行などに出かける教員もたくさんいる。
どんな時でも「楽しむ時はしっかり楽しむ」という彼らの姿勢らしい。
去年、ベテランのA先生がコントラクトミーティングで、契約を延長しないと告げられた。
事前に何も聞いていなかった彼は、その突然の「戦力外通告」におおいに動揺した。私の学校では、特に大きな問題がない限り契約は更新されるのが常だったから、そのニュースは他の教員にとっても驚きだった。
真面目なA先生は、毎朝6時過ぎには出勤。職場での人間関係も特に問題はなく、日常業務も問題なくこなしているように見えた。
彼は私の娘の数学の先生だったので、数学の苦手な娘の面倒をよく見てくれ、私にも様々なアドバイスをくれた。夏休み前には娘のために幾冊かの数学の問題集も用意してくれた。
A先生は離婚をしていて、小学生の子供の面倒を一人でみていた。彼はいつも彼の娘と一緒だった。私は朝早く、彼女が父親の教室から出て、自分のクラスルームまで小走りで行くのをよく見かけた。7、8歳位だっただろうか。長い黒髪の、小さくて痩せた女の子だった。
去年のクリスマスの日の朝、その子が緑のクリスマスツリーの上に赤い星がデザインされたセーターを着ていたのを今でも覚えている。父親が買ったのだろうかセーターは少し大きすぎた。彼女はそれを着て、いつものように学校の廊下を走っていた。なんだか小さな赤い星が飛んでいくように見えた___。
その後、人づてに「A先生がイギリスに帰った」と聞いたが、彼の消息は分からない。今では、彼の事について話す人もほとんどいなくなった。
今年もまた、クリスマスがやってきた。
Posted by 米山 一也
米山 一也
▷記事一覧日本の大学を卒業し、オーストラリアの大学で教員免許を取得し、現在はタイのバンコクのインターナショナルスクールで働いています。今年でタイ生活が22年になりました。家族は4人。2人の娘がいます。