PANORAMA STORIES
鶏肉の王様ブレス鶏に会いに行く! Posted on 2017/04/14 山本 佳代子 webマーケッター、ライター パリ
鶏肉屋のウィンドウをのぞくと、燦々と輝く白い毛の頭付きで置かれていたり、トリコロールのブランドシールが貼られたり、特別な白い布でくるまれた別格扱いの鶏が並んでいる。
これが鶏肉で唯一AOC認定(※)されているブレス鶏だ。
たかが鶏肉と思うなかれ、見るからに薄く繊細な皮、上質な旨味をたっぷり含んだ脂、”霜降り”と表現されることもある白く柔らかくし〜っとりとした身、それは鶏肉というよりもまさに「肉」といった深い味わい。
昔から3ツ星シェフたちに寵愛を受けてきた至極の名品なのだ。
さてさて、パリからTGVに乗って2時間弱 Boug en bresse という駅に降り立った。
養鶏場主の妻カリンが待ってくれている。そこから車で20分ほど、「うちの鶏のエサにするの」というひたすら続く麦畑を眺めながら、養鶏場にたどり着いた。
目の前に広がる草原に、美しい真っ白な鶏たちが優雅に歩き回っている。
多湿な風土のおかげでタンパク源であるみみずや虫などが掘り起こされやすく、元々恵まれた肉質を持っていたというこの土地の鶏。しかし、ここで育つからといって全ての鶏が「ブレス鶏」と名乗れるわけではない。
「ブレス鶏」と冠するためには、飼育のため1羽につき10㎡の広さの草地面積(この養鶏場はブレス鶏の中でも最高級の去勢雄鶏「シャポン」に倍の20㎡を与えている!)、全体の鶏舎面積、与える食料、外に放して育てる期間、出荷前の太らせるための仕上げの期間などの規定を全て守らなければならない。
若鶏、肥育鶏、シャポンと3種類に分けて育てられ、飼育期間の長さや出荷の仕方がそれぞれ異なる。
中でも1年近くかけて育てられる別格扱いのシャポンは、フランスのクリスマスの食卓を飾る代表的なメニューで、クリスマス価格で1羽、約150ユーロ(約18,000円!)で取引されるという。
突然の訪問も快く受け入れてくれた彼らが、自慢の鶏でもてなしてくれた。
シェフたちが真剣に格闘するブレス鶏も、彼らの手にかかると豪快そのもの。
シンプルにオーブンでグリルしたり、バーベキューにしたり。鶏そのものの味が抜群なので味付けは最低限。
したたりでてくる脂が野菜とからんで最高だ。質のいい脂はいくら食べても胃にもたれない。
みんなでテーブルを囲み、ワインをたっぷり飲みながら語り合い、骨までしゃぶりつく。
つい、「日本では鶏を生で食べることがある」と伝えてしまった。一瞬、鶏を生で食べるなんて! と引かれるかと思ったが、すぐさま「食べてみたい!」と言われてしまった。
私には調理もはばかられる高級鶏の塊、ましてや鶏刺しなんて作ったことなどあるわけがない・・・。
躊躇する私に「安全なものだけを食べて優雅に暮らして、数日前に殺されてそこから運ばれてくるだけなのよ。どこで菌が発生するの? 何が心配?」と切れ味の悪そうな包丁を渡してきた。(フランス人の家の包丁はだいたい切れない)
薄い桃色のつやつやピチピチの鶏様と格闘すること数十分。醤油におろし生姜を添えてテーブルに出すと、一瞬で完売となってしまった。中華料理屋もないこの田舎町で、刺身など口にしたことがないであろう老人や子供、みんなでブレス鶏刺しを堪能した。
自分たちが育てるブレス鶏への揺るぎない自信と、保守的と言われながらも、常に新しいものに挑戦し、受け入れていくフランス人の食に対する寛容さと懐の広さに舌を巻く。
大地の恵みを味わい尽くし、食べることを貪欲に楽しむフランス人。彼らが私にとってのフランス料理の先生だ。
小難しく気取り屋と捉えがちなフランス料理も、本来は素朴で血の通ったあたたかい料理なのだということを教えてくれる。
※AOC フランスには、AOC(アー・オー・セー、Appellation d’Origine Controlée)という産地、製造過程、最終品質を守るために、一定の基準を満たしたものでなければその名称を名乗れない、という制度がある。ワインやチーズなどに多く使われる。
Posted by 山本 佳代子
山本 佳代子
▷記事一覧Kayoko Yamamoto
食べるために、旅した国は20カ国以上。子供服メーカー、WEB広告代理店でのマーケッターを経て、胃袋をつかまれたフランスに移住。WEBマーケティングやライター、コーディネート業をしながら、娘への食の英才教育に精を出す。パリ在住。