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愛すべき・フランスデザイン「進化していくイタリアのパスタ」 Posted on 2022/07/24 ウエマツチヱ プロダクトデザイナー フランス・パリ
前回から、イタリア出張でみつけたイタリアのデザインを紹介しているが、今回はパスタについて。
この旅で、初めて見る不思議な形のパスタに出会った。
一緒にいたイタリアに詳しいフランス人の同僚が、このパスタを見つけたとき「大好きなやつ!」と手にしていたのをきっかけに、真似して買ってみたのだ。
※ラディオトーリ
家で食べてみると、複雑な形状にソースがたっぷり絡み濃厚だった。
よくデザインされているなぁ、また食べたいなぁ、と調べてみると、興味深いことがわかった。
このパスタはラジエーターの形状をヒントにデザインされたことから、「ラディオトーリ(Radiatori)」と呼ばれているそうだ。
いくつか文献やサイトを見たのだが、どれも「60年代にプロダクトデザイナーにデザインされた、という誤解がある」という記述があり、面白い。
実際は、20世紀初頭に作られたもので、当時、他にも機械や自動車産業から着想を得たパスタが数多く登場した。
例えば、ロテッレ(Rotelle)と呼ばれる車輪のようなパスタなどがある。
※複雑な形状にソースがたっぷり絡む
※パスタの着想の元、ラジエーター
イタリアには何千種類といわれるデザインのパスタがあるそうだ。
そういえば、デザインの勉強をしていた学生時代、パスタのデザインに取り組んでいた友人がいた。
パスタは、昔から存在するものだけれど、その形をデザインするという、とても興味深い題材だと思ったものだ。
形によって口に入れたときの食感は変わるし、製法によって表面のザラザラ感やツルツル感が変わる。
それが、ソースの絡みやすさにも影響してくる。
それは、学生の作品だったが、実はパスタのデザインは今でも進化し続けている。
※サイト「The Geometry of Pasta」ではパスタの歴史を学べる。本も出版されている。
最新のパスタは、なんと3Dプリンターで作られる。
世界ナンバーワンのシェアを誇る、イタリアのパスタブランド、バリラ(Barilla)社は、2016年に初めて3Dプリンターで作ったパスタを発表したが、そこから、ついに一般販売に至った。
バリラ社はウェブサイト「Blu Rhapsody 3D」で、15種類の3Dプリンターで出来たパスタを販売している。
素材は、デュラムセモリナ粉に水を加えたものと、通常のパスタと変わらない。
価格は12個で30€程度と、まだ高額だが、特別なレストランなどで使われるのだろう。
これまでの工法ではつくることが難しかった形状が実現したことで、ひと皿に新たな価値が加わりそうだ。
※バリッラ社のサイト「Blu Rhapsody 3D」より
パスタの歴史を掘り下げると、今のような多彩なデザインが生まれ始めたのは16世紀のこと。
生地を押し出すパスタ製造機と、パスタを形作る口金が開発されたことがきっかけになった。
そして、イギリスで起こった産業革命を皮切りに、更にバリエーション豊かになった。
そこから時代は移り変わり、幅広い産業で3Dプリンターが注目されはじめ、その流れはパスタにも至るということだ。
ちなみに、フランスのパスタ事情についても紹介したい。
先日、「Hello Fresh」というフランスのサイトで、フランス人が好きなパスタという調査結果が発表された。
一番人気はスパゲッティだったが、私が注目したいのは2位のコキエット(coquillettes)と呼ばれる小さなマカロニ。
フランス人にとってお馴染みのコキエットは、イタリア発祥のものではなく、スイス、ベルギー、カナダのフランス語圏ケベックあたりのものだという。
ベーコンが入ったクリームソースにチーズをかけてオーブンで焼いた家庭料理が一般的だ。
もちろん、通常のパスタのようにトマトソースなどに絡めることも。
※サイト「Hello Fresh」より
フランスでは、お弁当にパスタを持ってくる人をよく見かける。
コキエットのようなショートパスタだけでなく、スパゲッティなどの、伸びてしまいそうなパスタもお弁当にしてしまう。
レストランでも、パスタの茹で時間への意識はあまり高くないと感じることの多いフランス。
パスタが美味しいイタリアの隣国といえど、そこの意識はなかなか共有されないようだ。
Posted by ウエマツチヱ
ウエマツチヱ
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フランスで企業デザイナーとして働きながら、パリ生まれだけど純日本人の娘を子育て中。 本当は日本にいるんじゃないかと疑われるぐらい、日本のワイドショーネタをつかむのが速い。