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風呂敷で包むパリと東京の関係 Posted on 2018/11/13 辻 仁成 作家 パリ

扇子や陶器をはじめ日本の伝統工芸品がフランスでは昔から人気だ。今年はジャポニスムの影響もあって再びいろいろな日本のモノに脚光が浴びつつある。そんな中で、パリ市庁舎前で行われたイベント「FUROSHIKI PARIS」は特に大きな話題を集めた。
 

風呂敷で包むパリと東京の関係

詳しく内容を知らないまま出かけてみたが、どうやら東京都が文化交流事業の一環として開催したイベントのようであった。当サイトが主催する「新世代賞」の今年度の審査員を務めた友人でもある建築家、田根剛氏がアートディレクションを任されていた。日仏のアーティストがデザインしたオリジナルの風呂敷が場内に飾られ、集まったパリ市民の目と心を楽しませていた。会場の一角では風呂敷の使い方ワークショップも行われており、こちらも物凄い人だかりであった。
 

風呂敷で包むパリと東京の関係

風呂敷で包むパリと東京の関係

そもそも、風呂敷というのは実に便利な包装形態だと思う。扇子は世界的に普及して人気になったが、個人的には風呂敷の方がだんぜん欧州人には受けると思っていた。「風呂敷」というタイムリーな主題に私は個人的に小躍りをした。フランス人は世界で一番キュレーションの力を持つ人々だと常々思って来た。19世紀に開催されたパリ万国博覧会では真っ先に日本文化のすばらしさに着目し、ジャポニスム運動の先駆けとなった。そんな彼らだからこそ、風呂敷の利便性に対する反応は大きかった。

風呂敷というのは世界最強のエコバックだ。使い捨てのビニール袋とは違い、風呂敷は何度も何度も使用可能だという点にまず注目してもらいたい。パリのスーパーではここ数年、エコロジー的観点から、ビニール袋(紙袋)は買わなければならなくなった。エコを推進する市民たちは自前の大きな手提げ袋を抱えて来店する。使い捨てビニール袋への批判が強まったことを受けた運動である。そこで着目されてきたのが日本的発想のエコバック、風呂敷ということになる。何度でも使える上に結び方、包み方で運搬するものの量や大きさを調整できるところが素晴らしい。この日本人の伝統的考え方にパリ市民は驚嘆したわけだ。しかも包み方は無限にあり、一升瓶であろうと、洋服だろうと、本だろうと、なんでも運搬できるのだから、まさに叡智の結晶と言って過言ではない。風呂敷展が話題にならないわけがないのである。
 

風呂敷で包むパリと東京の関係

風呂敷で包むパリと東京の関係

ということで今日はこの風呂敷プロジェクトをアートディレクションした田根さんを会場で掴まえ、ちょこっと立ち話をした。


 やあ、田根さん、またまた面白いことをやってくれましたね、素晴らしいエクスポジションでした。風呂敷を新しいエコバックにたとえる発想がまず面白い。まず、このユニークなパビリオンの着想について教えてください。パリ市庁舎前に巨大な風呂敷、日本人ならば思わずニヤっとしてしまうデザインでしたね。

田根 たった一枚の四角い布である「風呂敷」をどのようにしたら、パリで驚き、そして楽しんでもらえるかを考えるのは、かなり大変でした。そこで大風呂敷という言葉のとおり、巨大風呂敷をパリの市庁舎前に設置するアイデアと、同時に市庁壁面に居並ぶあの歴史的石像に風呂敷を持たせるということまで思いつきました。これは過去に例がなく、セキュリティ的にも手続き的にも、今を生きる様々な方々を説得しなければならず、想像以上に苦労しましたよ。

 へ~、なんだか目に浮かぶなあ。パリ市庁舎の裏側の門のところに座る狛犬のようなライオン像にまで風呂敷を咥えさせていましたね、驚きましたし、思わず微笑みが誘われました。田根さんらしい。作っている人たち自身凄く楽しんでたんじゃないでしょうか? ところでこだわったところなどを教えてください。
 

風呂敷で包むパリと東京の関係

田根 このプロジェクトでは、「風呂敷は世界で最初のエコバック」という小池百合子都知事のコンセプトを元に、これからの環境を考える大切なメッセージを組み込もうと思いました。また風呂敷に込められた「包む」「結ぶ」「贈る」という日本の心を伝える最もシンプルな方法も、この風呂敷にまつわる様々な体験を通して伝えたい想いとしてありました。

 いいですね。田根さんから人類への熱いメッセージを一言ください。

田根 (笑)そうですね、地球環境がいよいよ目に見える形で変わってきています。
その為に、エコロジーによる新しい技術や新しいシステムも大事ではありますが、古来からあった生活文化を未来に向けて使っていくことの大切さを考えたいと思っています。

 田根さん、いいですね。近々、ゆっくりとお話出来る機会を作りましょう。そこで田根さんの未来図を教えてください。デザインとアートがこの難問抱える世界を救うような気がしています。期待していますよ。
 

風呂敷で包むパリと東京の関係

Jリーガーを目指したサッカー選手から、エストニア国立博物館のコンペを26歳の若さで勝ち取った建築家、田根剛さん、その経歴も面白いが、負の遺産を人類の未来へと作り変える、斬新な発想に彼の建築の新しい可能性を感じる。それが今回の風呂敷展に繋がっているのだと思った。いつの日か、パリのどこかに風呂敷を発想にした美術館が生まれる日が来るかもしれない。そんなことを空想しながら私は会場を後にした。
 

風呂敷で包むパリと東京の関係

パリ東京文化タンデム2018「FUROSHIKI PARIS」展
会期:2018年11月1日〜6日
会場:パリ市庁舎前広場(フランス)、パリ日本文化会館など
主催・共催:東京都、パリ市、アンスティチュ・フランセ
芸術監督:田根剛(Atelier Tsuyoshi Tane Architects)


Tandem Paris-Tokyo 2018 “FUROSHIKI PARIS”
Du 1er au 6 novembre 2018
Parvis de l’Hôtel de Ville, Paris, Maison de la culture du Japon à Paris, etc.
Organisation : Gouvernement de Tokyo, Ville de Paris, Institut français
Direction artistique : Tsuyoshi Tane (Atelier Tsuyoshi Tane Architects)
 
 

Posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。