PANORAMA STORIES
幼い頃の夢はなんですか? オランダで帆船に出会った Posted on 2017/07/10 荒井 瞳実 母 オランダ・デンハーグ
みなさんの幼い頃の夢はなんでしたか?
無邪気に夢をみる時期をとうに過ぎ、この夏14歳になる長男は思春期真っ只中。
そんな彼が幼き日の夢に再び出会う機会が、このオランダでありました。
オランダはNetherlands=低い土地という名が示す通り、国土の1/4が海抜下という、大変水に近い土壌です。
自らの力で海を埋め立て国土を作った先人たち。街中には小舟の浮かぶ運河があり、その機能はいまだ現役です。
水と共に生きるオランダが大航海時代にも大きく名を馳せたということは、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
先日、アムステルダムに帆船が寄港し、荷揚げをするという情報を聞いて、実際に航海をしている船を見物に行きました。この帆船は、Fair Transport というオランダの会社が有するもの。
石油などの化石燃料を使わずに、自然エネルギーだけを使って昔ながらの航海をして、オーガニックやフェアトレードなどの、生産者にも優しいものを運んでいます。この帆船で運ばれたものは、商品化されオランダのオーガニックショップなどでも広く流通しています。
今回はドミニカからの帰還ということで、樽に入ったラム酒や、麻袋に詰まったコーヒー、カカオビーンズを荷下ろししていました。
さて、我が家の長男、かつて船乗りになるのが夢でした。日本での保育園時代、初めて金槌と釘と木の端材で船を作り、水に浮かべた日から、いつか海に出る日を夢見ていました。しかし、バリ島に住んでいたときに、父子で出かけた近隣の島への旅でのひどい船酔いから、少しずつ船乗りの夢はフェードアウト。
その後に持った「旅をして写真を撮りたい、文章を書きたい」という夢はまだ捨てていないようですが、「堅実な、社会人になりたい」という漠然とした将来を描くこともあるようです。
普段は家族の行事にはなかなか同行してくれないティーンエイジャーを、無理やり連れだし、電車に揺られ、アムステルダム中央駅から出ているフェリーで対岸へ。そこには、小さな、それでいて凛とした姿の帆船が、在りました。
停泊する帆船に乗船し、船乗りの暮らす空間に足を踏み入れ、あめ色に光る船体や、潮で固く締まった縄に触れ、武骨な男たち(女性もいます!)を目の当たりにして、彼の目に光が宿ります。
力を合わせ、歌とともに荷揚げをする屈強な船乗りたち。そこに集まるたくさんの人たち。
かつて憧れていたものが、実際に大衆という社会と出会う場所を目の当たりにして、何か心に響くものがあったようです。
帰り道、彼は頬を上気させたまま「お母さん、今日は疲れたけど本当に来てよかった!」と笑顔を見せました。まるで嵐を抜けて太陽が現れたように、その日を境に、思い悩んだり、落ち込む姿を見ることが少なくなりました。
将来に迷い、自分自身にも自信が持てない思春期。そんな時にも、彼が幼いころに大切にした夢が、力を与えてくれることもあるのだなと、一緒に生きてきた歴史を振り返るきっかけともなりました。
14歳、社会という大海原に出航するときは、近づいてきています。
このオランダだから体験できた一日の出来事は、彼の人生という船のコンパスとなっていくのかな、と思いつつ、まだまだ母船としての役割の日々が続きます。旅立つその日まで。
Posted by 荒井 瞳実
荒井 瞳実
▷記事一覧Hitomi Arai
神奈川生まれ。2012年からバリ島、台北と旅するように暮らし、2016年オランダに着地。hitomiarai.infoという小さなオウンドメディアで、子育て、アロマセラピー、海外生活などを発信。植物やその土地の恵みを、暮らしの中や子育てに活かせたらと、常にナチュラルライフを模索中。現在は男児3人と夫のケアを基盤に、講座、講演、執筆活動などを。趣味は素敵な人とのお茶飲み。