PANORAMA STORIES
バニョル、小さな浴場で、心と体をリセット。 Posted on 2019/12/10 小川 裕子 トラベルコーディネーター フランス北西部ノルマンディー地方
森を抜けた先にポツンと佇むメルヘンチックな街「バニョル・ド・ロルヌ市/ Bagnoles de l’Orne」。一度聞いただけでは覚えられない地名だが「バニョル」という地名が「balneum小さな浴場」という意味のラテン語に由来し、中世の頃からここに湧き出る水が多くの人や動物を癒してきた伝説がある。温泉施設『b’o thermes』の地下から湧き出る水の源泉温度は24.3度。プールの水くらいの温度ではあるが、フランス北西部唯一の温泉保養地として年間11,000人ほどの湯治客が訪れる。パリからも230キロと日帰りが出来る距離なだけに多くのパリジャン&パリジェンヌも足を運んでいる。
さて、どんな魅力があるのか、心も体も美しくなれる街に潜入してみた。
まず魅力の一つは冒頭で申し上げた「水の効能」だ。フランスでは、医療行為として温泉療法が認められており、21日間の治療滞在の場合は保険が適用される。『b’o thermes』の水は「リューマチ、静脈系疾患、婦人科系の病」に効能があることで名高い。
また湯治客だけでなく観光で訪れる方も気軽に水の効能を体験できるよう『b’o spa thermal 』スパ施設も2012年にオープンした。2000平米という広さのスパ内には、17室のマッサージルームがあり、ここではノルマンディー地方の名産でもある「りんご」のエッセンシャルオイルマッサージも楽しめる。室内の装飾が「森林」をイメージしている内装なだけに、森の中で森林浴をしながらスパを楽しめるのも魅力的だ。
ゆったりとした空間でくつろいだ後は、街の中を歩いてみよう。
バニョル・ド・ロルヌ市の魅力の二つ目は、ベルエポック時代に建てられた建物の美しさだ。街に入った途端に左手には可愛らしい木組み建築の『ボワ・ジョリ』ホテルが見えてくる。フランスの政界で活躍したポンピドゥー大統領も1973年にお忍びで滞在されたホテルだけに、歴史を感じる佇まいとチャーミングな外観が乙女心をくすぐる。と同時に、右手には重厚感あるレジデンス(旧ホテル『Le Grand hôtel 』)も見えてくる。1890年代に建てられた当初は、ヨーロッパの美しいホテルの一つとしてプレスに発表されたほどであった。産業革命の発達により、当時としては最新の設備―セントラルヒーティング、エレベーター、電気設備も最先端のものであった。
経済的にも文化的にも大きな繁栄の時代となった19世紀後半。パリでは博覧会が開かれエッフェル塔の建設やメトロの開通、等 とても華やいだ時代だった。この時代は「ベル・エポック-美しき時代」と呼ばれている。
交通機関の発達により バニョル・ド・ロルヌにも1881年鉄道が開通した。パリから多くのブルジョワ階級の人々が温泉療法のためにこの町を訪れ、ヴィラも建設された。建築規定は厳しく、1935年までに建てられた邸宅には、バルコニーの設置、ボーウィンド、装飾に使われる色も緑・青・赤・黄色と規定があった。「ベル・エポック地区」と名付けられたこの地区は1991年に景観的文化財保護区域に指定されており、今現在もその景観は保たれている。
そして最後に、私なりに感じたバニョル・ド・ロルヌ市の魅力は、やはり住んでいる人の「笑顔」と「優しさ」が一番かもしれない。広大な森に囲まれた人口2500人ほどの小さな街だけれど、そこには暮らしている人、一人ひとりが自然の恵みに感謝している姿を訪れる度に目の当たりにする。「あ、自然に生かされているんだ」と。
そんな自然の中に身を置くと日常の些細な悩みがちっぽけに見え、「人生のヒント」が自然と湧き上がってくる。きっとバニョル・ド・ロルヌ市に絶え間なく湧き出ている水が悩みや不安を洗い流し、心を浄化してくれているのかもしれない。
生きていると人生に疲れたり、迷ったり、立ち止まって考えたり、色々なシーンに遭遇する。そんな時はバニョル・ド・ロルヌの地で心と体をリセットするのも良いかもしれない。
▪️交通機関情報
ノルマンディー地方のオアシス・美しくなる秘境の地「バニョル・ド・ロルヌ市」までの交通情報。
パリ モンパルナス駅(MONTPARNASSE 3 VAUGIRARD)より電車にてブリウーズ駅(BRIOUZE)へ。バスに乗り換えBagnoles de l’Orne 下車 (所要時間3時間ほど/バスは電車と接続が上手くいく時間帯で時刻設定)
2019年度 片道2等車 37.90€ (日本円で4500円前後程) 金額は毎年変更あり。
Posted by 小川 裕子
小川 裕子
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トラベルコーディネーター
フランス北西部ノルマンディー地方在住の旅コーディネーター。2007年よりノルマンディー地方在住。フランス労働省認定 観光カウンセラー免状保持。ノルマンディー地方にて現地の方との触れ合いを大切にした旅もコーディネートしている他、旅番組や雑誌、ガイドブックなどへノルマンディーの魅力をお伝えする活動を展開中。