PANORAMA STORIES
北イタリアで山の恵みをいただく! Posted on 2017/06/21 荒川 はるか イタリア語通訳・日本語教師 イタリア・ボローニャ
日差しが肌を心地よく刺激する季節が来た。この時期になると週末にこぞって海へ行き、小麦色の肌を見せつけるのがイタリア式。と思いきや、我が家は断然山派。
ボローニャ市内から車を走らせること45分、ロイアーノの栗林の中に身内の持つ別荘がある。
景色の良さはもちろん、栗の葉の下は空気が清々しく、ここで大家族(夫、義姉一家、たまに母)で過ごす季節が毎年待ち遠しい。4月、5月ごろから我々の週末山通いが始まる。
ここでの数ある醍醐味の一つが季節ごとの山の幸。
食す楽しみはもちろん、自然に囲まれてヘトヘトになりながらも、無心でお目当てのものを探すのが好きだ。
今回は春に採れる山の恵みをご紹介しよう。
夏は風船のような花を咲かせてすぐに見分けがつくシラタマソウ、でも収穫どきは春まだ花をつける前。ボローニャの町ではあまり知られていない野草で、山のご近所さんに教えてもらい最近その繊細な美味しさを知った。
しかし去年は勘違いして違う草を摘んでしまい、全部捨てる羽目に。
今年はリベンジで、図鑑の絵を頭に焼き付け、田舎道に探しに出た。
道端の草むらに目を凝らしてもなかなか見つからず、しらけ気味になったところで、あった! もちろん写真と見合わせて確認。間違いない。すると、目が慣れてきて次々見つかる。こうでなくっちゃ。
さてそのお味はというと、柔らかい葉をたっぷりのバターで炒めると少しぬめりがありほろ苦く、なぜか懐かしい味がする。リゾットやパスタに和えていただくと最高。
そして、見た目も可愛らしく、食してもまた美味なのがニセアカシアの花。
レストランで食べて感動したという近所のマルコから、日本人の私が揚げた「てんぷら」を食べたいとリクエストをもらい、早速花を摘みに。
西洋イラクサの葉とともにカリッと歯ごたえのいいてんぷらにすると、あっという間に完食。
春の定番の一品になりそうだ。
さっと茹でた甘酢漬けは箸休めに。
山の幸を求めて森に繰り出す楽しみと、季節の味、土地の味を堪能する幸せ。この辺りの住民の間でも、時代の変化とともに忘れかけていた土着の食文化を見直す人が増えてきた。
スローフードという概念がイタリアで生まれたのも、もともと豊かな食文化が根付いていたからだろう。
さらに今年は思わぬ嬉しい発見があった。
先日鹿児島出身の友人のご両親が山荘に遊びに来てくれた時のこと、森にお連れすると「あらっ、これ食べられるじゃない!」と無造作に若いシダを摘み始めた。なんとそこはわらびの里だったのだ。
普段無口なお父様も満面の笑みで「こうして採るんだよ。」と、摘み方を教えてくれた。何年も前から日本の山菜に似ているなと思ってはいたものの、まさか本当にわらびだとは。
地元の人はまさか食べられるとは想像もしていないから、一切手付かずで採り放題。隠された宝物を見付けたような気分で、嬉しいおたけびが止まらない。子供も呆れるほど童心に返った我々大人たちは、エンドレスにわらび狩りを楽しんだ。
疲れても、目の前に「お目当てのもの」があれば自然に体が動いてしまうから不思議だ。
抱えきれないほどのわらびを持ち帰り、シンプルに塩とオリーブオイルで、味噌汁の具に、油揚げと一緒に煮物にと、連日わらび三昧。
お勧めはアーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ。思いつきで作ってみたところ、相性抜群で私の周りのイタリア人にも大人気の一皿。ロイアーノの人々の食卓で市民権を得るのも時間の問題かもしれない。
地元の人とレシピを教えあったり、お裾分しあったり、時には食卓を囲んだり。
こうして小さな山村で二つの食文化が少しずつ混ざり、溶け合っていくのがたまらなく嬉しい。
Posted by 荒川 はるか
荒川 はるか
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イタリア語通訳・日本語教師。東京生まれ。大学卒業後、イタリア、ボローニャに渡る。2000年よりイタリアで欧州車輸出会社、スポーツエージェンシー、二輪部品製造会社に通訳として勤める。その後、それまでの経験を生かしフリーランスで日伊企業間の会議通訳、自治体交流、文化事業など、幅広い分野の通訳に従事する。2015年には板橋区とボローニャの友好都市協定10周年の文化・産業交流の通訳を務める。2010年にはボローニャ大学外国語学部を卒業。同年より同学部にて日本語教師も務めている。