PANORAMA STORIES
丘の上のマリア様が見守るものとは・・・ Posted on 2017/03/13 荒川 はるか イタリア語通訳・日本語教師 イタリア・ボローニャ
移り住んだ町で、よく見る景色にある時ふと親近感を感じる瞬間が誰にでもあるだろう。
ボローニャに来て1年ほど経った頃、電車から見えるサンルーカ聖堂が急に身近な存在に感じられるようになった思い出がある。隣町へ通勤していた時のことだ。
通勤といっても日本とは比べものにならない交通事情。ここはイタリアだ。電車は本数が少ない上に度々遅れた。
朝はまだ良かったが、帰りは数十分、ひどい時には1時間近く電車を待たないといけないこともあった。
乗ってしまえば20分で着くというのに。
仕事よりも待ち時間に辟易してようやく電車に乗り込む日々。
車内で本を読んだりボーッと考え事をしたりして、ふと窓の外に目をやると、連なる丘の上にいつも決まって丸いクーポラのサンルーカが見えた。そろそろボローニャに着くという合図。
だから、サンルーカを見ると「おかえり」と言ってくれているようで、ホッとするようになった。
通勤生活を終えてからも、ボローニャを離れると帰りにはサンルーカが迎えてくれた。
車でミラノやフィレンツェ方面から帰ってくるときも、飛行機で空港に降り立って家路に向かうときも、
あの聖堂に「ただいま」を言うことができる。
サンルーカの名前で親しまれている「聖ルカのマリア聖堂」には、福音記者ルカが描いたと言われる聖母子像が祀られている。
コンスタンチノープルから来たという歴史を持つこのマリア様は、中世の時代からボローニャの人々に愛され続け、多くの人が祈願のために丘の上へ足を運んだ。
町の中心から続く巡礼の道は、市民の寄付によって作られたポルティコ(柱廊)で守られている。
離れた所からよく見えて町のランドマークになっているサンルーカだが、面白いことに参道からは最後まで聖堂の姿を見ることができない。
丘のふもとからの登り道は、左右に曲がりくねっては、なだらかになったり急になったり、リズムが変わる音楽に乗せられているよう。途中、急な坂道も眼下に広がるボローニャの街並みが支えてくれる。
最後の長い階段では、その先に現れる大きな十字架を目指してラストスパート。階段を登りきったところで、自分が聖堂のファザードのそでにいることに気づく。
いつの間にか懐に迎えられている、なんて粋な演出。
薄雲に覆われていた空も、高台までくれば雲は晴れて眩しいほどの陽の光がそそいでいる。
十字の前で息を整えて、入り口へ。
母性を形にしたようなおおらかな曲線を描く聖堂の奥に、サンルーカの聖母子像がひっそりと佇む。ビザンチン帝国の都から長旅を経てここに根を下ろしたこの絵は、「道を示す」マリア様なのだそう。
長年旅人たちを見守ってきたマリア様は、日本からの旅人にもボローニャへの道を示してくれた。
だからたまに会いに来たくなる。「ありがとう」を伝えるために。
Posted by 荒川 はるか
荒川 はるか
▷記事一覧Haruka Arakawa
イタリア語通訳・日本語教師。東京生まれ。大学卒業後、イタリア、ボローニャに渡る。2000年よりイタリアで欧州車輸出会社、スポーツエージェンシー、二輪部品製造会社に通訳として勤める。その後、それまでの経験を生かしフリーランスで日伊企業間の会議通訳、自治体交流、文化事業など、幅広い分野の通訳に従事する。2015年には板橋区とボローニャの友好都市協定10周年の文化・産業交流の通訳を務める。2010年にはボローニャ大学外国語学部を卒業。同年より同学部にて日本語教師も務めている。