「Le Serreレ・セッレ」は１０年来手付かずだった観葉植物の栽培園を再生して生まれた新たな公共スペースだ。

ボローニャ旧市街に隣接した広大な市民公園の一画にあるこの新しいオアシスに私が足を運んだのは、
散歩がてらに公園へ行った時のことだった。

秋色の並木道を通って「レ・セッレ」の門を抜けると、まずは右手にある菜園に惹かれた。

大きなオブジェと秋冬野菜が並ぶ手入れされた菜園は活き活きと美しい。

そして、一息つこうと黄色い建物の裏手にあるビストロ「ヴェトロ（イタリア語でガラスという意味）」を目指した。一歩足を踏み入れた瞬間、その空間が気に入ってしまった。

ガラス張りの温室を改装したこのスペースは光に満ちていた。狭いながらも、ごくシンプルな木製のテーブルと、
天井や窓際に配置された植物が軽快な心地よさをあたえてくれる。
菜園で感じた温かみがここでも伝わってくる。

仕事の合間に外の空気を吸おうと立ち寄ったのだったが、ここへ来て一気に心の空気が入れ替わったようだった。
ハイセンスながら気取ったところがなく、ガラス越しに緑を眺めながら寛ぐのもいいし、
気のおけない仲間を連れてグラスを手に語り合うにもいい空間だ。

実際、ガラスで覆われたこの空間は雨が打つ日も、しっとりとした夜も、来るたびに違った趣に浸れる場所である。

店の外はハーブが生い茂る苗床の中にルーフ付きのカフェスペースが並び、緑や花々に囲まれて談話を楽しむことができる。ツタが這う手作りらしきテーブルも愛嬌があっていい。

あらゆるところに、素朴であたたかなセンスが感じられる。

この新たな憩いの場「レ・セッレ」は、シェアオフィスを提供するコワーキングスペースとして生まれた。

そのコンセプトは、仕事と余暇の空間を隔てずに、どちらも快適な環境として人々が共有できるスペースを提供するというもの。ガラスドア越しにビストロと繋がっているシェアオフィスは、ワーカー達が仕事を終えるとビストロスペースに取って代わる。

子供を持つワーカー達のために、オフィスの隣には託児所が設けられている。
公園の緑に囲まれた環境で異業種の人が交わり、知識やアイディアを共有するだけでなく、同じ敷地内で世代も職業も違うボランティアの人々が共に菜園を手入れする。

そこでは栄養と愛情たっぷりの野菜と同時に、新たな人間関係、自然と人との関係が育まれる。

菜園では従来の野菜以外にも古代種や忘れられた品種、外来種を栽培し、収穫した有機野菜やハーブの一部はビストロで料理になる。
例えば私は菜園で苦瓜を発見した。
イタリアの家庭ではまず食卓に並ぶことのない野菜である。

ここではシェフは伝統にこだわらず、季節の食材を活かした料理を提案する。

「ヴェトロ」は、働く人や託児所に通う子供と親、ボランティア、あるいは単にこの場所が好きで来る人達の交流の場であり、採れたての野菜を中心としたメニューで心と体に栄養を与える場所なのだ。

私の直感は当たったと思った。
ここに入った時に温もりを感じたのは外観の美しさだけではなく、そこにフィロソフィーがあったからだった。

実は市内ではこの様な再生プロジェクトの例が他にもある。
廃墟と化した施設を取り払わずリノベーションすることで、地域との調和を残したまま新たな価値を生み出す。
プロジェクトごとに趣旨は様々だが、日々目にしていた廃れきった場所に新たな命が宿れば、
人々は関心を持ち集い始める。

こうした喜びを共有できる集いの場がボローニャに増えてきている。
これからも発見の楽しみが尽きなそうだ。