PANORAMA STORIES
離れていても心は一つ Posted on 2020/03/15 荒川 はるか イタリア語通訳・日本語教師 イタリア・ボローニャ
ご存知の通り、イタリアは蔓延するコロナウィルスの影響で国中が封鎖された。日本でも連日報道されているようで、色々な人が心配してメッセージを送ってくれる。ありがたい思いでいっぱいだ。封鎖・外出禁止という言葉で心配になるかもしれないが、見えないものと戦う不安を抱える中、国が徹底的な対策を取ったことで、人と接触が避けられて安心というのが私の正直な思いだ。
北イタリアの小さな町で感染者が続々発見され、町が封鎖されたのが約三週間前。二日後には北イタリアで学校の休校が決まり、その決定の早さに正直驚いた。大学に勤める私は自宅待機になった。一週間後にはボローニャ大学を含め各地の大学がオンライン授業をスタートした。急なことで準備する時間もほとんどなく、戸惑いながらもやるしかない。学生の顔を見ないで授業を進めるのは、逆にとても緊張し、久々に初心にもどった感じがした。
そうしている間に、休校はイタリア全国に広がり、人との間隔を1メートル以上取るよう政府から指示が出た。懐かしい友だちに会っても、ハグも頰にキスもできなくなった。日本人の私でさえ違和感があるのだから、イタリア人にとって親しい人を思いっきり抱きしめられないジレンマは計り知れない。
それでも感染者数は増え続け、一週間ほど前から段階的に本格的な対策が講じられた。まずは感染者が集中する北部がレットゾーンとして封鎖対象に、その二日後にはとうとうイタリア全国が封鎖となった。#IORESTOACASA(I STAY AT HOME私は家にとどまる)がスローガンで、必要がない限りは自宅待機が大原則。感染しない、感染させないためにできるだけ家にこもり、仕事・健康上の理由・その他必要不可欠な場合以外は市から出ない、というもの。そして、遂には食料品や医薬品以外の小売店も閉鎖になった。
今回のことで経済的な打撃は計り知れない。先の見えない不安を抱え、誰もが肌でこの危機を感じている。非常事態に置かれたイタリアの動きに世界が注目し、もちろん賛否両論色々な見解があると思う。でもここで20年を過ごした私が今感じるのは、国も国民も、真正面から深刻な現実に向き合っているということ。
外出が制限され、親しい友人にも親戚にも必要がなければ会いにいくことはできなくなった。逆に大切な人だからこそ離れたところから思いやる、が今のスタンスだ。そしてみんな歯を食いしばっているからこそ、エールを贈り合い、絆を示したいのがイタリア人。18時、各地で人々がバルコニーに出て音楽を奏で合あった。演奏する人、歌う人、踊る人。SNSがその映像で一杯になり、リアルでもウェブでも繋がる。これがイタリアだ。
そして今日の正午、バルコニーから今度は一斉に拍手を送った。病院で命をかけて奮闘する医師や看護師たちに。そして家で戦い続ける一人一人に。線路の向こうのバルコニーには親戚も顔を出していて、大きく手を振って思い切り投げキスを送った。あまり変わらないようで、やはりいつもとは違う日常。思わず胸が熱くなった。
Posted by 荒川 はるか
荒川 はるか
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イタリア語通訳・日本語教師。東京生まれ。大学卒業後、イタリア、ボローニャに渡る。2000年よりイタリアで欧州車輸出会社、スポーツエージェンシー、二輪部品製造会社に通訳として勤める。その後、それまでの経験を生かしフリーランスで日伊企業間の会議通訳、自治体交流、文化事業など、幅広い分野の通訳に従事する。2015年には板橋区とボローニャの友好都市協定10周年の文化・産業交流の通訳を務める。2010年にはボローニャ大学外国語学部を卒業。同年より同学部にて日本語教師も務めている。