PANORAMA STORIES

絵本の町ボローニャで生まれた出会いが形に Posted on 2017/08/22 荒川 はるか イタリア語通訳・日本語教師 イタリア・ボローニャ

先日私のもとに日本から2冊の絵本が届いた。待ちに待っていた小包を受け取り、絵本が姿を現した時はなんとも愛おしい気持ちでいっぱいになった。どちらも繊細で肌触りのよさそうな柔らかなタッチが見事に再現されている。

イラストレーターへのコンタクトの段階から、編集コーディネートの緻密なやり取りまでをお手伝いした本が、ついに世に出たのだ。
 

絵本の町ボローニャで生まれた出会いが形に

ボローニャは実は世界初の児童書専門の国際見本市が誕生した絵本の町。
そのボローニャ・チルドレンズ・ブックフェアで毎年注目を集めるのがイラストレーター展「ボローニャ国際絵本原画展」。今年は61カ国からの3千を超える応募の中から75人の入選者のイラストが展示された。
原画展はその後日本をはじめ数カ国に巡回する。

これを機に世界で活躍するようになったイラストレーターは数知れない。
 

絵本の町ボローニャで生まれた出会いが形に

今回、この原画展のために来場した日本の出版社の通訳同行をきっかけに、イラストレーターの発掘から絵本出版までの道のりに携わる機会を得た。
それは国も言葉も越えた、人と人との出会いから始まる「良いものを作る」ための共同作業。私の役目は言葉の壁を取り払うことだ。
 

絵本の町ボローニャで生まれた出会いが形に

出版社はアーティストの思い描く世界を充分に発揮する絵本作りを目指していた。だからこそ意思疎通が要になる。

ブックフェアでイラストレーター二人と会談した後は、メールのみで私を介した日本とイタリアのやり取りが続く。
今の時代、遠距離でのコラボレーションは極ありふれたことかも知れないが、顔を合わせて実物を見ながら話すことで得る理解を、メールだけでカバーするのは簡単ではない。不安や誤解がつきものだ。
もちろんそれを回避するのも私の仕事だ。
 

絵本の町ボローニャで生まれた出会いが形に

面識がなかった日本の編集担当者は、本人の写真付きのプロフィールページを送ってくれる心遣いで、仕事の進め方の違いに戸惑いながらも、イラストレーターの意向を汲み取ろうという努力を惜しまなかった。

ありがたいことに、互いに相手を理解しようという姿勢をとると自然と距離は縮まり、絡んだ糸もほどけやすくなる。両者の波長が揃ってゆくのが感じられた。
 

絵本の町ボローニャで生まれた出会いが形に

今年イラストレーター展に入選し、『白雪姫』の絵を担当したモニカ・エルナンデスさんは人懐こい笑顔が印象的で溌剌とした女性。細やかな几帳面さを持ち合わせていて、メールでも綿密なやり取りを繰り返した。

鮮やかな色使いと愛らしさたっぷりの幾何学的な絵には彼女の人柄がそのまま出ている。
 

絵本の町ボローニャで生まれた出会いが形に

一方『かくれんぼの庭』のダニエレ・カステッラーノさんは、寡黙な男性で若いながらに独特な世界観を確立している。昨年入選を果たし、今年はブックフェア全体のビジュアルデザイナーに抜擢された期待のアーティストだ。
今回初めて絵本作家としてストーリーごと手掛け、更には本のサイズやレイアウト、紙の質感に至るまで彼の中で完成品が明確に描かれていた。
編集側は彼の構想をリスペクトしながら絵本作りを進めた。
 

絵本の町ボローニャで生まれた出会いが形に

両者とも色鉛筆を使って絵を描く。
ダニエレさんの作画中のタイムラプス動画を見たが、手が動くばかりで「全く変化なし」とは本人のコメント。
丹念に書き込まれた二人の作品は、共通して撫でたくなるような優しい質感を持っている。
日本に帰国した際に編集会議に伺い、この原画の持ち味を十二分に生かそうと尽力する現場の緊張感を目の当たりにした。

それから約1ヶ月後、ついに絵本がイタリアに届いたのだ。イラストレーター二人の歓喜は言うまでもない。

制作に関わった人一人ひとりの情熱が詰まった絵本作り。その温もりは、この本を手にした子供たちを優しく包みこむことだろう。
 

絵本の町ボローニャで生まれた出会いが形に

2人展より 原画「白雪姫」

 
 
絵本出版を記念した二人のイラスト原画展が東京で開催中。

「ボローニャ国際絵本原画展入選作家 ダニエレ・カステッラーノ モニカ・エルナンデス 2人展」
会期:〜8月31日 月〜土 ※日・祝休み
会場:絵本屋カフェBologna 東京都新宿区小川町3−4 TEL03−6457−5222
時間:12:00〜18:00(閉店時間変更がありますので、電話でお確かめください。)
料金:入場無料
 
 
2017イタリア・ボローニャ国際絵本原画展
会期:平成28年7月1日~12月10日
場所:板橋区立美術館(7月1日~8月13日)
   西宮市大谷記念美術館(8月19日~9月24日)
   高浜市やきものの里かわら美術館(9月30日~10月29日)
   石川県七尾美術館(11月2日~12月10日)
 
 

Posted by 荒川 はるか

荒川 はるか

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Haruka Arakawa
イタリア語通訳・日本語教師。東京生まれ。大学卒業後、イタリア、ボローニャに渡る。2000年よりイタリアで欧州車輸出会社、スポーツエージェンシー、二輪部品製造会社に通訳として勤める。その後、それまでの経験を生かしフリーランスで日伊企業間の会議通訳、自治体交流、文化事業など、幅広い分野の通訳に従事する。2015年には板橋区とボローニャの友好都市協定10周年の文化・産業交流の通訳を務める。2010年にはボローニャ大学外国語学部を卒業。同年より同学部にて日本語教師も務めている。