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当たり前の毎日がなくなって見えたこと Posted on 2020/03/26 マント フミ子 修復家 パリ

マスク不足、医療従事者の不足や疲労、外出制限中の市民・・・。政府の方々も連日の対応に疲れが溜まってきていることでしょう。しかし、悲しいことに、新型コロナ感染者の数は減るどころか、増え続ける一方。外出制限を行なって1週間なので、まだその成果が出てこないことはわかっているものの、それにしても、もどかしい気持ちになってしまいますし、街を走る救急車の音を聞くと胸がドキドキします。

そんななか、フランスの高級ブランドメーカー、ルイ・ヴィトンなどで有名なLVMHグループが不足が続く消毒アルコールジェルを独自で生産し、全国の医療機関に寄付をはじめました。その決定は3月15日21時になされ、翌日の16日、日曜日から生産、17日午後にはパリの公立病院に届けられたそうです。この決断、実行の速さには驚きました。大手ブランドだからこそできることでもあるでしょう。消毒ジェルは、会長のベルナール・アルノー氏の指示で同グループが持つコスメブランド、「クリスチャン・ディオール」、「ゲラン」、「ジバンシー」3つの香水工場で生産され、ハンドソープを入れる容器に詰めて届けられたようです。1週目に12トンのジェルが生産され、この消毒ジェルの生産は、必要である限り続けるそう。

LVMHは消毒ジェルだけでなく、1千万枚のマスクを中国に発注し国に寄付することを決めていますが、そこにかかる費用はなんと50万€(日本円で約6億円)。同社が支払い、政府と連携をとって、できるだけ早く医療の現場に届くよう手配されているようです。

その他にも、フランスの洋服ブランドメーカー、SAINT JAMESやランジェリーブランドのCHANTAL THOMASSなど、数社が自社の布を使ってマスクを生産し、病院関係者など(医療従事者はサージカルマスクかFFP2タイプのマスクを着用するため)に配られています。バレンシアガやイヴ・サンローランを所有するケリング社はパスツール研究所への寄付や独自でマスク生産をすることも決めており、現在、素材などのチェックを進めているそうです。

商店、レストランは閉まり、街の人々も外出を制限される生活が続いていますが、この前代未聞の状況の下、あらゆる分野、企業が特別なサービスを提案しはじめています。

大手スーパーが外出困難なお年寄りに買い物を届けたり、テレビ番組が時間帯に分けて子供たちに授業を放送したり、ミュージシャンがライブ配信をしたり、オペラ座がサイトで演目を無料で提供したり、スポーツインストラクターが自宅でのスポーツをサポートしたり、時間をもて余す人々がSNSを駆使し「笑い」を届けたり、それぞれが自分の得意な分野でできることを一生懸命考え、共有し合っています。個人主義のフランス人が、大企業から個人単位まで、連帯、結束して「危機を乗り越える」という同じゴールを目指しているのです。

当たり前の毎日がなくなって見えたこと

新型コロナ感染症の拡大は非常に強力で恐ろしく、文明が発達した今でさえ、自然のウイルスに太刀打ちできない人間の小ささを実感してしまいますが、同時に、今まで”忙しい日々”に目隠しされていた、人間の心の大きさや優しさを肌で感じさせてくれています。

ドイツのメルケル首相が国民に語りかけた言葉の中に、「普段あまり感謝されることのない人たちにお礼を言わせていただきたい。このような状況下で毎日スーパーのレジにいる方、商品棚を補充している方々は、非常に困難な仕事を担っています。ありがとうございます」という1フレーズがありました。

現在、世界で約20億人の人々が、自分や家族、友人を守るためにロックダウン生活をしていますが、食料品を扱う方々は、毎日危険と隣り合わせの仕事を続け、私たちの生活を保証してくれているのです。様々な人や仕事の支えがあってこそ、”当たり前の毎日”が成り立っていることを、今、深く実感しています。



Posted by マント フミ子

マント フミ子

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Mante Fumiko
修復家。岡山県出身。在仏30年。フランスに暮らしはじめ、アンティークの素晴らしさに気づく。元オークション会社勤務。現在はパリとパリ郊外の自宅にて家具やアンティーク品の修復をしている。