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1989年11月9日、あなたはどこにいましたか? Posted on 2019/11/08 エロチカ・バンブー バーレスクダンサー ベルリン

ベルリンに住んで、この街の魅力に気づき出したのはここ数年。越してきた当時はベルリンを楽しむ余裕などなく、厳しく寒い灰色の冬とドイツ人の硬い怒ったよな表情しか目に入らなかった。今思えば、私の心が凍っていたから周りの世界が明るいことに気づいていなかったのだと思う。ベルリンに対して本当に失礼極まりなかったわ!

1989年11月9日、あなたはどこにいましたか?

30年前まで、壁で真っ二つに分かれていたベルリン。今も西と東では人々の表情もどこか異なるように見える。私はどちらのエリアにも住んだ経験があるけれど、どちらもとてもチャーミング。騒がしく町中が明るくパーティのような西。最初はとっつきにくいけれど、一旦仲良くなり心を開くと家族のように親切な東。

そんなある秋の日、街を歩いていると、象でさえ買える百貨店というジョークがあるほど、ベルリン一(いち)、何でも揃うデパート「KaDeWe」のギャラリーウィンドウに目が止まった。

1989年11月9日、あなたはどこにいましたか?

”1989年11月9日、あなたはどこにいましたか?”

1989年11月9日、ベルリンの壁が崩壊した日。壁崩壊30周年記念企画で、この百貨店で働く従業員200人それぞれの、1989年11月9日の思い出が顔写真とともに飾られていた。40年以上そこで働く人からまだ生まれていなかった人まで。

”襲撃されそうになった。ただテレビを見ていた。トイレにいた。東から初めてこの西にある百貨店に来てあまりの豊かさに涙した。壁が崩れる数ヶ月前、命がけでハンガリー経由で西に逃げ、崩壊した翌日東の両親に会いに行った。”

1989年11月9日、あなたはどこにいましたか?

思想も芸術も、持って生まれた人種も許されないあのひどい戦争。1961年に突然コンクリートの冷たい壁で分裂させられた。国の都合で愛するものも無理やり離され、会いに行こうと試みれば殺される。そんな時代があった。自由を求める姿は、痛々しいギルティーと自己嫌悪。
そこから、とことん自由になろう。自由でなければいけない! 自分の居場所は自分で作る! と、叫ぶようになったベルリナー(ベルリンの人)。
この町の持つ悲惨な歴史や、だからこそ自由であろうとするベルリンの人々の熱は、時折このお気楽な私にさえめまいを起こさせる。安堵と平和と悲しみ、未来へ向けた希望、絶望。無垢な光。織り重なる感情やエネルギーは、ゴールデンに輝くベルリンの秋をより艶やかに見せる。

1989年11月9日、あなたはどこにいましたか?

”1989年11月9日、タラはどこにいましたか?”

私は同じキャバレーシアターショーで一緒にショーをしている東ベルリン出身のタラに聞いてみた。あの日、彼女は15歳。学校を卒業した年だった。

彼女は言った。
「私にとってはすごくラッキーだったの。あのまま壁があったら多くの私のような若者が道を失った。学校を卒業したら大学に行くのも簡単ではなかったの。だけどいきなり道が開けた」

彼女は続けた。
「だけど私の両親は路頭に迷ってしまった。今までの職を急に失ったから。まだ35歳だったというのに、何ができるのかわからなくなってしまったの。彼らだけでなく職を失い希望をなくしたのは若者も同じだった。彼らの一部はネオナチの思想に染まっていったの」

新鮮な魚や果物、甘いお菓子は簡単に手に入らなくとも、教育や仕事は国に守られていた東ドイツの人々。彼らはいきなり放り出されてしまった。今も「クソッタレ西ベルリン!」と吐き捨てるようにつぶやく男を見た事がある。どこか虚ろで戦いを放棄したような目で。

1989年11月9日、あなたはどこにいましたか?

その時、私はどこにいたのだろう。

1989年のある日のノートを見つけた。九州のキャバレーの旅にの途中、列車の中や楽屋で描いたスケッチとともに。地上に落ちて24年も経っていたのに、なんで私はこんなにもマヌケだったのだろうか。ああ、若かったなあ。絶望の繰り返しだった。この頃、一体何に絶望していたのだろう!

1989年11月9日、あなたはどこにいましたか?

2019年、街も変わりつつある。ベルリンの魅力はこの街の懐の大きさにあるように思う。以前はパーティー好きの若者が集まる街だったが、最近は起業しようとする若者がどんどん集まってくる。有名無名アーティストやミュージシャン、移民、トラベラー、ちょっとホリデーに来て居着いてしまう人、働きたくない人々、ゲイカップルを親に持つ子、結婚という形に縛られない家族…。そんな人たちで構成された不思議な街。
ドイツ語という難易な言語で書かれた膨大な堅苦しい書類と高い税金のお陰で何度もここでの生活を挫折しそうになったけれど、この街の持つリラックスしたエネルギーが、
「見てごらん、このゴールドに輝く木々を! そしてちょいと一服。美味しいコーヒーでも、ゆっくり味わっておいきなさいよ」 と、私を立ち止まらせる。

2019年12月27日、渋谷のカフェ・ボヘミアにてTOKYO TEASE100バーレスクショー開催します。

詳しくはTwitter Instagramにて11月11日にアプロード!
https://twitter.com/ErochicaBamboo
https://www.instagram.com/erochica_bamboo_/



Posted by エロチカ・バンブー

エロチカ・バンブー

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Erochica Bamboo
バーレスクダンサー。日本の各都市のクラブやキャバレーでショー活動した後、2003年にラスベガスにある世界で唯一のバーレスクミュージアム、Burlesque Hall of Fameで開かれるバーレスクの祭典で最優秀賞を獲得。それを機にLAに拠点を移す。2011年よりベルリンへ移りヨーロッパ、北欧で活動中。ドイツのキャバレー音楽ショー”Let’s Burlesque”のメンバーとしてドイツ各地をツアー中。