バーレスクショーって見た事ある？

ひとことで言えば、ストリップティーズのこと。
ストリップティーズの ” tease ” には「焦らす」という意味があって、踊り子がドレスを少しずつ焦らせながら脱いで行く、オールドスタイルのストリップ・ショーのことで、それは時にコミカルに、ロマンチックだったり、力強かったり、見る人をワクワクさせる。
 

まさかバーレスクが私の生涯の仕事になるなんて想像もしていなかった。
誰よりもシャイで、その上、雑誌やテレビが見せてくれる美しい女性像とは全く正反対の容姿だったから。

でも、そんな私をバーレスクが世界へと連れ出してくれた。
古いバーレスクの教科書には “バーレスクダンサーはセンセーショナルであれ！” そう書いてあるの。

センセーショナルでありたい。だから、この道を信じて旅を続けよう。
 

おはよう！

凍てつくベルリンの冬の朝、重たく大きなドアを押し開けると、そこに待っていたのは仲間たちの車。
今からまた一緒に旅に出る。
ステージマネージャーのウバが私の大きなスーツケースを御年２００歳のウッドベースの下に滑り込ませた。

いざ、ケルンへ向け出発。
 

車に乗り込むと、私が寝不足で酷い顔をしてても必ず素敵な事を言ってくれるベーシストのDr.ジャズ。

「今朝も美味しいコーヒー作って来たの？　君のは格別だ。もう他のコーヒーは飲めないくらいだよ。」

ちょっと恋しちゃいそうになるけれど、この穏やかなDr.ジャズ、時々ぎらっと輝く瞳の奥に野獣が住んでいる事はみな知っているのだ！　港々にお気に入りのプッシーキャットがいることだって。ミャオ〜。
 

「踊り子なんて何年も出来る仕事じゃないから早めにやめた方がいいよ」と、お決まりのご意見には耳も貸さず、
後先なーんにも考えずに踊り続けてアメリカへ。そして、流れ流れてドイツ、ベルリンに辿り着いた。

若い頃、ある街のナイトクラブでピアノ弾きに言われたの。
「ステージには魔物が棲んでいてね、この仕事３日やったらやめられなくなるんだよ。」
ちょうどデビューして３日目の夜だった。

私は、今もまだその魔物に取り憑かれているみたい。
 

「おーい、車の窓をちょっと開けてくれないかい？」
後部座席にどっしり座っているサックスのMr.キングが大声を出す。彼は左耳が全く聞こえない。
今日も助手席の鏡を見ながら髪をくるくるセットするイタリア人の踊り子ハニー。
ヘアスプレーの匂いを散らすように窓を開けると、冷たい雪まじりの強風が吹き込んで来た。私たちは大はしゃぎ。

ケルンまであと３時間。今年もいい風に乗って行こう。
 

今夜の出演先はフォルクスビューネ劇場。
夜になれば着飾った人たちでいっぱいになる劇場も、昼間はどっしりと静まりかえっている。
戦前に建てられたこの劇場にどれだけの俳優やミュージシャンがこのステージにたったのだろう？

戦火の中を生き抜いてきた劇場、想像するともう胸がきゅんと熱くなる。
 

劇場に入るたびに、たとえそれが一夜限りであっても、その劇場と恋に落ちたいという気持ちになる。
本番前のほんの数時間という合間に、劇場内を歩き回り、劇場と会話をする。

日本人の私を受入れてくれるなんて心が広いわ。それとも何か私にファンタジーを抱いてるの？　そのファンタジー、今夜壊してしまうかも。

壁を優しく撫で、柱をぎゅーっと抱擁する。「大好きよ」と心を込めてステージをゴロゴロ転がるの。
ショーの成功を祈りながら、劇場と愛を誓うデタラメなダンス。
遠くでいつも笑ってるテクニカルスタッフに「君はなんてクレイジーな日本人なの！」ってまた賞賛されてしまったわ。

幕が上がるまであと少し。今宵もどうぞよろしくね。