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エコロジー都市、ミュンヘンの新しい街づくり計画 Posted on 2019/05/21 川合 英介 建築士 ミュンヘン

住宅不足が恒常的な問題になっているミュンヘンでは、近年大規模な住宅地の開発が行われている。そのうちの一つが「プリンツ・オイゲン・パーク」というプロジェクトで、ミュンヘンの北東郊外に位置する。30ヘクタールの敷地に、複数の住棟(総住戸数1800)や小学校などの公共施設が建設される。2008年に行われた全体計画を募集するコンペティションでミュンヘンのGSP Architektenという設計事務所の案が選ばれた。一方で、敷地内に建つ各建物についても全体計画に基づいた設計案が公募され、ドイツ、オーストリアなどから、若手を含む設計事務所の計画案が選出された。現在、僕が実施設計に携わっている二棟の建物は、ミュンヘンのFink&Jocherという設計事務所が設計した。確認申請設計までを当事務所が担当し、その後の実施設計を僕が現在、勤務している事務所が行っている。

この住宅街の敷地は2005年にミュンヘン市が住宅地として開発する以前は、主に軍事関連の敷地として使用されてきた。周辺に自然が多く、敷地の南北東側が緑地帯に囲まれていることから、敷地内部でも緑地が多く計画され、周辺地域との緑による融合を図っている。ミュンヘン市は、この特性を生かし、エコロジー都市の開発モデルとして「プリンツ・オイゲン・パーク」を喧伝している。
 

エコロジー都市、ミュンヘンの新しい街づくり計画

このミュンヘン市の意図を汲み、GSP建築事務所は、敷地の西側に面する幹線道路側の都市的な雰囲気から東側の緑地帯へ、なだらかに変化するように2つの小街区タイプを配置している。
まず、路面電車も通過する敷地西側の幹線街路に面しては、ブロックランドベバウウングBlockrandbebauungという、中高層住棟が中庭を囲い込む街区が計画されている。これはヨーロッパではよく見られる街区で、メリットとしては、車両交通が排除されるために中庭空間を子供達の遊び場や憩いの場にすることができる。また、中高層建物が街路を挟み込むため、密度の高い都市的雰囲気が生まれる。現在僕達が計画している建物は、このタイプに属する。

この住宅街の顔ともなる建物を主体とした「中高層住棟+中庭」の街区に隣接して、緑地を主体とした「緑地街区」が3区画×3区画(合計9区画)配置される。直線住棟、ローハウス、都市住宅的ブロックハウス、低層住棟の4つの建物タイプが、緑地をベースとして計画される。そして、それぞれのタイプ毎に、異なる所得者層が居住することが目論まれている。このように、街区の内部に複数の建物タイプと異なる所得者層を混在させる理由は、偏った所得者層の集住が生み出した都市問題、例えばスラム化や地価高騰による地域コミュニティーの崩壊、等を避けるためでもある。また、緑地街区は緑が多いため、周辺の自然とスムーズに融合していく。
 

エコロジー都市、ミュンヘンの新しい街づくり計画

この二種類の街区の周辺に配慮した配置計画と、高密度中層住棟群が幹線街路に向けて、新しい地域の顔を作り出そうとしていることがおもしろい。僕がそう思うのには実はわけがある。かつて、まとまりのある街区の表情とはどのようなものなのか、その構造が知りたくて、ミュンヘンの都市壁撤去後に形作られた新しい都市の境界について博士論文を書いた。思い返してみれば、その根本にあったのは、オットー・ワグナーを筆頭とした建築家達が作り上げたウィーン旧市街環状街路沿いの素晴らしい建築群や、東西イデオロギーによって都市を分断したベルリンの壁と、東西ドイツ統一による壁の撤去に興味を惹かれたからだった。
 

エコロジー都市、ミュンヘンの新しい街づくり計画

エコロジー都市、ミュンヘンの新しい街づくり計画

その後、ドイツ都市を調べていく過程で、都市造形と都市壁に魅了された。都市壁は「進撃の巨人」などを通じて、もはや、日本でもなじみのあるものになった。それは主に、神聖ローマ帝国領土を荒廃へと追いやった悪名高き三十年戦争での、もしくは東から攻め入る異民族への防衛手段でもあった。

エコロジー都市、ミュンヘンの新しい街づくり計画

エコロジー都市、ミュンヘンの新しい街づくり計画

時が流れ、やがて都市の成長を妨げる要因とみなされた都市壁は、撤去されてゆく。そして、この撤去後の跡地を利用して、都市壁に比べてはるかに柔らかく、時に不可視なものになった新たな都市境界が都市の新たな表情として形成されたのだった。
 

エコロジー都市、ミュンヘンの新しい街づくり計画

「プリンツ・オイゲン・パーク」でも、新しい都市の表情が誕生しつつある。その街の表情の一翼を担うBlockrandbebauungブロックランドベバウウング形式の住棟二棟の実施設計もようやくフィナーレに近づき、着々とレンガとコンクリート構造壁の建設が進んでいる。

 

エコロジー都市、ミュンヘンの新しい街づくり計画

 
 

Posted by 川合 英介

川合 英介

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Eisuke Kawai
建築士。静岡県出身。2003年交換留学生として渡独。以来、ミュンヘン在住。ミュンヘン工科大学にて「都市壁撤去後の都市境界形成」について博士論文を執筆、博士号取得。現在、建築士として設計事務所に勤務。住宅、幼稚園、事務所、集合住宅の新築、改修、増築プロジェクトを担当。パティシエの妻、二人の息子とバイエルン生活をドタバタとエンジョイ中。