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愛すべきフランス・デザイン「パリジェンヌのお気に入りのスーパー、モノプリって?」 Posted on 2022/05/07 ウエマツチヱ プロダクトデザイナー フランス・パリ

愛すべきフランス・デザイン「パリジェンヌのお気に入りのスーパー、モノプリって?」

「このお洋服、私が小さい頃に着ていたものだわ! モノプリだったのね!」と、興奮気味に語るのは、同僚のマリソル。私の職場では調査のために、定期的に展覧会に行くのだが、今回、向かった先は、パリ装飾美術館 (Musée des Arts Décoratifs)で行われている、フランスのスーパーマーケット「モノプリ(Monoprix)」のデザイン展。
モノプリはフランス全土で700店舗展開するスーパーのチェーン店で、食料品から衣類、雑貨までを取り扱う。スーパーの中ではちょっと高級で、洗練されているイメージがある。
展覧会の会場には、老若男女、モノプリ好きのフランス人が集まっていた。お洒落な格好をした小さな男の子が展示をみていたので「可愛いね」と声をかけたら、横にいたお母さんが「今日の服は、全身モノプリよ! モノプリサイコー!」と、これまた熱い。
今回は、フランス人にこんなに愛され、デザイン展まで開かれるスーパー、モノプリを紹介したいと思う。

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愛すべきフランス・デザイン「パリジェンヌのお気に入りのスーパー、モノプリって?」

※マリソルが懐かしんでいた子供用品の展示コーナー



モノプリのオリジナルグッズで、日本に住む人が手にする機会がありそうなものは、エコバックかもしれない。季節毎に新しい柄が発売され、ひとつ1,5€(約200円)という手軽さ。日本へのバラマキ土産に欠かせない存在だ。
日本のガイドブックにもよく載っているし、いくつも集めている人も。柄の斬新さもさることながら、形も少し横長で使いやすい。モノプリは、エコバックひとつにしても、デザインが凝っている。
同僚のマリソルが持っている、最近、人気の雑貨ブランド「アントワネットポワソン(Antoinette Poisson)」とのコラボのものは、買い逃して悔しい思いをしたのだが、展覧会では大きく展示されていて、更に買えなかったことを悔やむ…。



愛すべきフランス・デザイン「パリジェンヌのお気に入りのスーパー、モノプリって?」

※アントワネットポワソンのエコバックは羨ましい



そして、デザイナーやアーティスト、他業種ブランドとのコラボも特徴的なモノプリ。今となっては、コラボ企画は珍しいものではなくなったが、モノプリは60年代から、様々なクリエイターと組んで商品を開発し、ライフスタイルを提案してきた。
コンラン・ショップの創始者であるコンラン卿も、家具や雑貨などのデザインを依頼されたひとり。コンラン卿が手掛けたと聞くと高そうだが、「低価格で良質なデザインを提供すること」がモットーのモノプリらしく、スーパーの日用雑貨の価格だ。
また、ディオールとイヴ・サンローランで経験を積んだアレクシ・マビーユが、ウエディングドレスのコレクションを180€前後(約2万5千円)で発表したときも、話題をさらった。
どんな大物と組んでも、スーパーの価格帯を逸しないのが、モノプリの魅力。



愛すべきフランス・デザイン「パリジェンヌのお気に入りのスーパー、モノプリって?」

※2018年に発表されたウエディングドレス


愛すべきフランス・デザイン「パリジェンヌのお気に入りのスーパー、モノプリって?」

※今季のコラボはポルトガルのアーティストCasa Cubista



また、プライベートブランドの食品にも力を入れていて、2010年から採用されているパッケージのグラフィックは、カラフルでとてもアイコニック。文字情報が全面に印刷され、中身が何か、ひと目でわかり機能的。歴代のポスターのコーナーでは、過去の鮮やかな色使いを一同に見ることができる。

愛すべきフランス・デザイン「パリジェンヌのお気に入りのスーパー、モノプリって?」

※店舗のお茶のコーナー




愛すべきフランス・デザイン「パリジェンヌのお気に入りのスーパー、モノプリって?」

※お菓子のパッケージも統一


愛すべきフランス・デザイン「パリジェンヌのお気に入りのスーパー、モノプリって?」

※洗剤や掃除用品も同じデザインテーマ


愛すべきフランス・デザイン「パリジェンヌのお気に入りのスーパー、モノプリって?」

※展覧会の色鮮やかな歴代のポスター



この展示会の中で、私が最も惹かれたのは60-70年代に販売された家具を集めた空間だ。プラスチック製のベッドや椅子は、時代を象徴するプロダクトだが、ボートの船底を造る、当時の新技術で実現したという。
コンセプトモデルのような斬新なデザインが、スーパーで一製品として販売されていたのには驚きだ。

愛すべきフランス・デザイン「パリジェンヌのお気に入りのスーパー、モノプリって?」

※60年代に発表されたプラスチックの家具たち



また、この展覧会は、モノプリが1997年に買収したスーパー「プリズニック(Prisunic)」のデザインについても触れていた。今のモノプリがオシャレなのは、プリズニックから引き継がれたものだ、と同僚はいう。
かつてのレジコーナーが再現されていたのだが、フランスで「プリズニックのレジ係」はプロレタリア(労働階級)の代名詞だったそう。それは、プリズニックが戦後の高度経済成長の象徴で、それだけフランス人にとって親しみのある存在ということらしい。



愛すべきフランス・デザイン「パリジェンヌのお気に入りのスーパー、モノプリって?」

※美術館で再現されたプリズニックのレジ



「昔は当たり前だと思っていたプリズニックのものが、今見るとオシャレね!」と、話しているマダムたちがいた。懐かしい想いで見ている人たち、こんなものがスーパーで売られていたのかと驚く人たち、会場のあちこちで会話が弾んでいた。
そんな様子をみていると、モノプリがいかにフランス人の日常に寄り添い、生活を作り上げてきたかを感じる。もはやモノプリはただのスーパーに留まらない、フランス文化をも作り上げてきた存在といえるのではないだろうか。

愛すべきフランス・デザイン「パリジェンヌのお気に入りのスーパー、モノプリって?」

※プリズニックから販売された家具


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Posted by ウエマツチヱ

ウエマツチヱ

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tchie uematsu
フランスで企業デザイナーとして働きながら、パリ生まれだけど純日本人の娘を子育て中。 本当は日本にいるんじゃないかと疑われるぐらい、日本のワイドショーネタをつかむのが速い。