PANORAMA STORIES
雨天曇天Melbourne 「衝撃エマージェンシー 後編」 Posted on 2020/12/25 ムラカミ ネハン 漫画家 メルボルン
「つい最近コロナ禍の出産という一大イベントを乗り越えたオレには手首の手術とか朝飯前☆」という謎のテンションをキープしたままのネクスト・モーニング。
前日に「10時に正面玄関に来てね〜☆」とライトに言われたのを信じて、ぺろっとクレジットカードとポケットティッシュだけ持って「今から散歩ですか?」くらいのノリで病院へ。
付き添いがいるわけでなし、泊まりでもないんだし、置き引きを心配するくらいなら手ぶらでGO!とはいえ鼻水は出ちゃうと困るし(実際帝王切開前に手術着が寒くて鼻水が出て参った)ティッシュはマストアイテム!そこは同じ轍は踏まないぜ!むしろこれが最高にして最小の装備!ふはは!と自分の経験値を存分に信頼して手術に臨んだワテクシ。
しかしまず受付で「手術?担当医は誰?」と尋ねられ鼻歌混じりの出鼻へサクッとジャブを打ち込まれることに。
たたた、担当医?初耳すぎる言葉に「昨日エマージェンシーで『明日手術だから来て』って言われただけだからアイドンノウ…」としどろもどろになるワタシ。そしてそんな私を「なにこの手ぶらのアジア人…なんか勘違いしてんじゃないかしら?」という超絶胡散臭い目で見てくる受付のマダム。ハイ裏目〜!手ぶら裏目〜!
まだ手術室にも至ってないのに、のっけから止まらぬ冷や汗。
彼女がパソコンで名前をチェックしてくれたものの、やはり手術のリストには上がってこないらしく、各所へ電話連絡して確認している間まんじりと待つ私。
「これで『連絡行き違いで今日はやっぱり手術できましぇ〜ん☆』なんてことになったら私の腕は折れたまま固まってしまうのだろうか?このままstay tune in東京Friday night?(byサチモス)」とズンズンズンドコ募る不安(ここからいや増すきよしの登場率)。
結局マダムによると、私がインターナショナル・ペイシェント(海外籍の患者)だったからリストにはなかったそうで、「そんなことがあるんかーい!こんなことでも永住権が無いハンデを負うなんて…でもとりあえず今日手術が無事できそうで良かった!」とそんなアップダウンするマイ・フィーリングを手術用の待合室でTwitterに実況中継するツイ廃のワタシ。
そしてやっと手術着に着替えるように看護師に通されたのは、どう見ても普通の病室。ただ着替えをするだけなのにやけに広いな…と思ってると、
「ここがあなたの部屋よ〜、個室だし明るくていい部屋でしょ〜!でも明るすぎる?ブラインド閉めとく?」とのこと。
ええ?「個室」って、それはもしやお泊まり的なサムシング☆を意味してるのかしら…いやまさか…と尋ねてみたら、
「えっ、聞いてないの?術後の状態にもよるけど、少なくとも一泊はすることになると思うけど」
「ででで、でもでも生後2ヶ月の赤ちゃんがいて世話しねばだからアイ・ハフトゥー・ゴーホーム…」
「ん〜、全身麻酔だから今夜帰るのはまず無理じゃないかな〜」
オーマイガー。最小の装備で花の子ルンルンだった今朝の私の首を締め上げたい。今すぐに。
というか、最大の問題なのは私のお泊まりセットではなく、産後ロックダウンで外出しないのをいいことに、母乳しか知らない粉ミルクを一切受け付けないマイベイビーのミルク。午後には帰れるだろうと置いてきた搾乳は数時間分のみ。ワタシの乳なしに一晩は持たないであろうことは確実。一体全体どうすれば…とアワアワしてる私のところへ「大丈夫デスカ〜?」という日本語が…。追い詰められすぎてすわ幻聴?と思いきや、なんとその日の担当の婦長さんが日本語ペラペラだったのでした(神1)。
このズンドコKIYOSHIな状況下で、日本語でコミュニケーションできる有難さ!(感涙)というわけで、赤ちゃんを連れてきて一緒に泊まるということは可能かと早速聞いてみたら「別にいいと思うけど、一番いいのはパンプ(搾乳)してウチに持って帰ってもらうことじゃない?ご主人は取りに来れないの?」
しかしコロナ禍で相変わらず患者以外はパートナーしか病室には入れない…仮にダンナシに取りに来てもらうとしてもお子は放置できないし…とそこへ私のツイートを見た友達から「何か手伝えることがあったら言ってね〜」との連絡が(神2)。
普段は人に頼ることを良しとしないガチ長女マインドの私ですが、もうそんなことを言ってる場合ではないのでソッコー友達に連絡して術後に搾乳を取りに来てもらうことに。ありがとうマイフレンド!そしてエラいぞ全てをTwitterに垂れ流している自分!
ちなみに手術前に麻酔師へ授乳について聞いたところ、「昔は麻酔の後は授乳しちゃダメとか言われてたけど、今はほとんど母乳への影響は無いから大丈夫〜。心配なら術後の一回目は搾乳して捨てればいいし」とのことでした。
そんなこんなで自分の心配より乳に気を取られている間につつが無く全身麻酔へ。
人生前半戦では手術入院なんてしたことが無かったのに、わざわざこのコロナ禍に二度も手術する私って一体…と思いながら意識を失ったのでした。
そして術後目覚めてみると、全身麻酔&点滴&右手固定は想像以上にヘロッヘロで身動きが取れず「ワイ全身麻酔ナメテーター…体を起こすだけでもヨボヨボなのに赤子の世話が想定されてないタイプの病室に赤子連れてきて入院なんてマジで無理ぽやったわ…手術当日にウチに帰るなんてオフコース論外!」と術後の大変さをようやく思い知り、また改めて今朝の花の子ルンルンだったオノレをくびりに行きたい気持ちでマイ・ハート・ウィル・ゴーオン。
しかし友人(神2)により速やかにお泊まりセットと搾乳機が届けられ、なんとか難を逃れることもでき、あとはヨボヨボのまま眠るのみ…という私の眼前に現れたナイトシフトの看護師は両腕&首までタトゥーでキメッキメのロン毛ヒゲモジャのむくつけきメンズ。オーノー。
「今はウェイなタトゥーメンと相対する気力もナッシン…」と一瞬ゲンナリしたものの、彼が深夜でも検温やチェックのたびに120%満面の笑みで「good girl、痛いところはない?」「good girl、何かあったらいつでもすぐに呼んでね☆」と『良い子ちゃん』を連発してくれるので、心身ともにボロボロの中年女性の自分が、「お利口な良い子ちゃんの幼児」になった気がしてめっちゃ心安らかになったのでした。ありがとう、ヒゲモジャタトゥーナースよ(神3)。
「介護や看護で年寄りを子供扱いするのはけしからん」みたいな言説も世にあるかとは思いますが、私個人の体験としては「弱ってる時の子供扱い超ウェルカム!!私がもし老人ホームに入ることになったあかつきには、ガンガンに5歳児としての甘やかしをキボンヌ!!!」と拳を握りしめて主張したいと思うに至ったで御座候。
そんな新たな認識を得た翌日の午後、またしても別の友人(神4)が迎えに着てくれて無事自宅へゴーホームできることに相成り、今回の入院も神々に助けられて何とかなったな…と胸を撫で下ろしたものの、そんな安堵は右手を封印された状態での育児とリハビリデイズという、真の地獄の日々にいともたやすく掻き消えていったのでした…ゴーン・ウィズ・ザ・ウィンド…。
3、この状態で子供の世話なぞできるはずもなく涙
Posted by ムラカミ ネハン
ムラカミ ネハン
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漫画家。海外留学経験ゼロ、英語もほとんど話せない状態で2008年にオーストラリアはメルボルンへ。以来、日本語教師として教壇に立ってはいるものの、今だに英語は大の苦手。前職は全く畑違いの結婚式の音響スタッフ。ネコ中毒。Twitter:@murakami_nehan