パリ近郊、西の方角に位置するサンジェルマン・アン・レー(Saint-Germain-en-Laye)は、広大な森に囲まれた閑静な高級住宅地。一方で中心部に目を向けると、かわいいブティックやレストラン、カフェなど色々なお店が賑やかに立ち並んでいる。週末はのんびりとショッピングに出かける人もいれば、ハイキングや森林浴をする人もいたりと、都会的な楽しさと緑の大自然とが絶妙に融合した街である。

サンジェルマン・アン・レーを語る上でまず、何よりも欠かせないのが、この土地に深く根ざしたその歴史。宮殿と言ったら、誰しもがヴェルサイユ宮殿を真っ先に思い浮かべることだろう。しかし、それ以前、実に29人もの歴代フランス国王が居住したのはここ、サンジェルマン・アン・レーなのだった。

RERの駅を出て地上に上がると、サンジェルマン・アン・レー城がお出迎え。シャトー・ヴュー（Château-Vieux）という名前を持つこのお城は元々、12世紀初頭、ルイ6世の命で狩猟小屋として作られた館だった。今のお城の外観が形成されたのは、16世紀初頭、フランソワ1世の時代である。

お城の上部には、フランソワ1世の頭文字Fと、彼のシンボルとされるサラマンダー（古代ギリシャのトカゲ）の装飾が施されている。
実はこのすぐ隣には、かつて、シャトー・ヌフ（Château-Neuf）というもうひとつのお城が存在した。そここそが、ヴェルサイユ宮殿を作った、あの太陽王ルイ14世が誕生した場所であった。

今そのお城があった場所には、「ル・パヴィヨン・アンリIVオテル・レストラン・ガストロノミック・テラス」（Pavillon Henri IV Hotel Restaurant Gastronomique Terrasse）という高級4つ星ホテル・レストランが置かれている。実はここ、フランスの伝統的なソースのひとつ、ベアルネーズソース（Sauce Béarnaise）を最初に提供した場所と言われている。ベアルネーズソースとは、澄ましバターとエストラゴン（ハーブ）、エシャロット、卵黄、セルフィーユ（フレンチパセリ）、酢などを煮詰めて作られた、マヨネーズに似た味わいのソースで、お肉料理に合わせられることが多い。開店した1836年、このレストランで働いていたシェフがレシピを考案したんだとか。

外に張り出されているメニューを見ると、メイン料理の1番目、サレール牛のフィレ肉のところにはやはり、ベアルネーズソースの名が。ここの看板メニューらしい。

フランス革命やナポレオン1世の時代には、牢獄や軍の兵舎として使われていたお城だが、現在、中は国立考古学博物館になっている。入場料金は通常6€だが、26歳以下と月の第一日曜日は無料で入ることができる。いずれも予約は必要ない。

先史時代から中世前期までが展示されている。

最後はチャペルの中へ。ルイ14世は、生まれてから幼少期のほとんどをサンジェルマン・アン・レー城で過ごした。敬虔なカトリック信者だった彼は、毎日ミサのためにこのチャペルを訪れ、そして趣味のダンスもここで披露していたのだそう。

歴代のフランス国王たちも、もしかしたらこの中庭から、同じ景色を眺めていたかもしれない。お城を見上げると、何世紀もはるか昔、そこで生きた人々や彼らの暮らし、その世界が浮かんでくる。サンジェルマン・アン・レーが誇る歴史のロマンは、この街の美しさと魅力をより一層引き立てていると言えるだろう。