PANORAMA STORIES

拝啓、読者の皆様 Posted on 2016/11/11 石井 リーサ 明理 照明デザイナー パリ

はじめまして、照明デザイナーの石井リーサ明理です。

前回は、ちょっと変わったプロジェクトを成し遂げたばかりでしたので、世阿弥様宛の書簡でしたが、今回は、このWEBマガジンの読者の皆様宛に、お手紙を一筆啓上いたしたく思います。

照明デザイナー、日本では90年代から「ライトアップ」という言葉とともに、徐々に知られるようになってきましたが、その認知度はまだ一般的ではないように思います。
世界には、先駆的に照明デザインを始めたアメリカや、社会的な重要性が政治レベルで認識されているフランスのような国もありますが、やはり、とても新しい仕事ですので「認知途上」と言えるでしょう。

さて、私の仕事は、わかりやすく言うと、建築家が自分ではレンガを積まずに、アイディアとノウハウを提案し、それを実現させるために、図面や模型やCGを使うように、照明デザイナーは、光というツールで、空間をよくするアイディアやノウハウを提供し、実現に向けた技術的サポートをする仕事です。
 

拝啓、読者の皆様

これをもっと詩的に言うなれば、「闇という黒いキャンバスに、光の絵の具で絵画を描くような」ことをしています。
光というのは、意外かもしれませんが、目には見えません。光が当たっている建物や地面が明るくなっているだけです。そうした目に見えない空気のような存在ですから、皆さんあまり日常気にしている方は少ないかもしれません。

どうでしょうか?

空気がすごく悪いと不快だったり、空気が良いところに行くと清々しく感じるように、やはり、光もまぶしかったり強すぎたりと悪いものは気になりますし、よい光の時にはとてもよい気分になるものです。
言ってみれば、雰囲気の「気」を作る、つかみどころのない要素の一つだと思います。

とっても素敵な舞台を観た後、「照明がよかったね」という人はまずいないけれど、そこには必ず照明が一役も二役も買っているはずです。それと同様に、とっても居心地のいい空間や、素敵な風景には、光が(見えないところで)大分貢献していることが多いのです。

私はそんな(目に見えないけど)「素敵」を作るために、なるべく光はどこから来ているのかわからないようにして、照らされている建物や絵画などが自分から魅力という「光」を発しているようにしたいと願いながら、ライトアップなどの仕事と日々向き合っています。
 

拝啓、読者の皆様

例えば、私の代表作の一つとなっているポンピドー・センター・メッツは、この9ストーリーズにも投稿していらっしゃる坂茂さんによる建築設計の、フランス東部にある国立美術館です。

フランス政府の肝いりで実現した、国家的プロジェクトの一つでした。

超難関国際コンペを勝ち抜いた坂さんの作品を見た時、
「こんなに素敵な建築、照らしたい!」という率直な気持ちの他に私の頭の中に浮かんだのは、美術館という場が本来備えている、多様な文化や表現との出会いの場という性質からきたインスピレーションでした。
 

拝啓、読者の皆様

つまり「空飛ぶ絨毯によって、光る雲の上を自在に飛び回りながらいろいろなアートに会いに行く」そんなイメージを、この不思議な建物の夜の顔として実現するというコンセプトが照明デザインの核となったのです。

最初のプレゼンテーションでは、光る雲の写真などを沢山見せました。
その場にいたメッツ市の議員さんや、ポンピドーセンターの関係者たちは、「はぁ?」状態だったかもしれません。
でも、そうした夢のあるイメージを共有することが大切だと私は思うのです。

建築プロジェクトは常に問題の山ですが、核となるイメージがあるからこそ、ぶれないで最後までそれに近づける努力ができるのだと、この現場でも実感させられました。
 

拝啓、読者の皆様

竣工の半年前、ライトアップが仮点灯され、本当に光る雲が浮いたような建物の夜景を見た時、それまでいろいろあった現場チームの心は一つになりました。

光は人に感動を与える、ものすごいパワーを持っているのです。

そんな私の仕事、照明デザインのいろいろな側面や、私が何を考えて、デザインをしているのかなど、これからもご紹介していこうと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

敬具
            
                
パリにて。2016年10月

 
 
        

Posted by 石井 リーサ 明理

石井 リーサ 明理

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Akari-Lisa Ishii
照明デザイナー。東京生まれ。日米仏でアートとデザインを学び、照明デザイン事務所勤務後、2004年にI.C.O.N.を設立。現在パリと東京を拠点に、世界各地での照明デザイン・プロジェクトの傍ら、写真・絵画製作、講演、執筆活動も行う。主な作品にジャポニスム2018エッフェル塔特別ライトアップ、ポンピドーセンター・メッス、バルセロナ見本市会場、「ラ・セーヌ日本の光のメッセージ」、トゥール大聖堂付属修道院、イブ・サンローラン美術館マラケシュ、リヨン光の祭典、銀座・歌舞伎座京都、等。都市、建築、インテリア、イベント、展覧会、舞台照明までをこなす。フランス照明デザイナー協会正会員。国際照明デザイナー協会正会員。著書『アイコニック・ライト』(求龍堂)、『都市と光〜照らされたパリ』(水曜社)、『光に魅せられた私の仕事〜ノートル・ダム ライトアップ プロジェクト』(講談社)。2015年フランス照明デザイナー協会照明デザイン大賞、2009年トロフィー・ルミヴィル、北米照明学会デザイン賞等多数受賞。