JINSEI STORIES
欧州のパワースポットで魂を整える1 アイスランド・ハイランド Posted on 2019/12/06 辻 仁成 作家 パリ
肉体というけれど、ぼくら人間は肉体だけで動いているわけじゃない。
もっと大事なのは魂とか精神なのだけど、この領域のことはだいたい疎かにされがちだ。
身体や筋肉を鍛えろというのは表面的なことで、筋肉をトレーニングしている人は普通、それを通して魂や精神や心を鍛えている。
ぼくらがスクワットをするように、魂や心もスクワットが必要なのだが、その方法がわからない。
だから、厳しい日々の筋トレを自分に課すことで同時に運動家は精神を鍛えているのだろう。
ぼくは筋肉を鍛えるということは必要以上にはしない。
必要のない筋肉を鍛えることにぼくは意味をみつけない。
最低限の筋トレはやるけれど、生きることを維持する程度しかしない。
むしろ、ここのところ集中して取り組んでいるのが魂の筋トレである。
パワースポットという単語は流行語で胡散臭いので使うのが憚られるけれど、力や磁力や精神を浄化させてくれる神聖な場所というのは、存在する。
パワースポットが何かをくれるという感覚ではなく、巡礼に近い。
そこへ行くということが人々の疲れを癒す行為となる。
アイスランドには電車やバスがないので、必ずレンタカーをしないと秘境に辿り着くことはできない。
道なき道をひたすら行けば、至る所に地球のチャクラが口を開いてあなたを待っている。
アイスランドには名だたる観光名所があり、温水が空まで吹き上がる場所だったり、物凄い巨大な滝つぼが大地の割れ目に存在したり、ある意味、どこもかしこもパワースポットなのだけど、でも、ぼくがいうそれと認めたくなる場所というのは気づき難い場所に、ごく普通にささやかに存在していたりする。
以上のような美しい写真は、いわゆるアイスランドの観光地で、それはそれは絶景で、世界各地から大勢の観光客が集まって来る。しかし、
ぼくが出会ったパワースポットは観光コースに選ばれてさえいない何でもない場所にあり、その存在は全く目立たない。
けれど、そこに行くと、数人の地元の人がいて、祈りを捧げていたりする。
そこは首都レイキャビクから北に向かってひたすら車で走った場所に広がる荒野の中ほどにある。
近くまで国道でいき、そこから降りてひたすら歩く。
茶褐色の小山が露出する不思議な場所で、でも、降りた時からざわざわと心を揺さぶる何かがあった。
霊的な過去の経験についてはここでは省くけど、地球を強く感じるそういうスポットにはまず本能が反応をする。
世界中を旅するのが好きな理由の根本に身体が求めるというのがあるのかもしれない。
そこはRaudhholarと呼ばれる何もない土地であった。
しかし、同じような場所はハワイの北部、アメリカとメキシコの国境、アルジェリアとモロッコの山岳地帯、阿寒湖に近い湿原地帯、トルコ北部、サントリーニ島、アイルランド中部の山岳、いろいろ思い出してきたけれど、当時のスリランカやタイとベトナムの国境などにもあった。
そういう場所の一つとアイスランドで出会ったに過ぎない。しかし、どこの場所も根底で地球の根っこと繋がっている。
アイスランドに足蹴く通うぼくの仲間が発見し、ぼくが確認に出かけると、そこはまさに非常に力の強いパワースポットであった。
やはり、レイキャビクに住む人々が、何もない荒野に車で乗り付けて、小高い丘に登って何か瞑想のようなことをしている。
耳奥を静かに揺さぶる波動を感じる。ここでしか感じることのできない地球の声であった。つづく。