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パリ最新情報「非紳士的ロンドン市長選候補者対安心冷静な対応フランス」 Posted on 2020/02/21 辻 仁成 作家 パリ

ぼくは一月の中旬くらいから、オリンピックは大丈夫だろうか、と度々ツイートや日記で発言し続けてきたけれど、開催を楽しみにしている国民の一人なので、実は辛い。その上で、一つだけどうしてもあえて言わせてもらいたいことがある。ロンドン市長選の二人の候補者が「東京オリンピックをロンドンで代替開催可能」と名乗りを上げたニュース。英国政府がICOと人道的立場でしかも水面下で協議というならまだしも、日本人の不幸を踏み台にして、ロンドンの有権者の関心を集め勝とうとするやり方がブレグジット以降のイギリス流なのかと思うと、これまた残念でならない。

パリ最新情報「非紳士的ロンドン市長選候補者対安心冷静な対応フランス」



そもそもダイヤモンド・プリンセスは英国船籍であり、船会社はアメリカなのだ。日本は拒否も出来たけど国民がおおぜい乗っていたこともあり、また発着地として受け入れた。アメリカのCDC(疾病予防管理センター)が日本政府の対応を今頃批判しているが、その通りなので反論できないけれど、こうなる前にそう思うなら、なんらか力を貸そうという発想にはならなかったのか? 海洋法のことまで詳しく分からないので、これ以上は発言できないけれど、着岸するまでに起こった感染の責任を(少なくとも感染拡大の兆しが海洋上ですでに起きていた。その後の対応を日本政府は見極めきれなかった)日本だけが追う形で国際的批判を浴びているのは悔しさを覚える。日本政府が蓋を開けたら対処力無しだったことが驚きに拍車をかけた。あそこで、きちんと防御できていれば、と思うと残念でならない。それでも、自国民が乗船している英国や米国は、船籍(名前貸しみたいなものだろうけど)保有国であり運営会社国であるという意味で批判じゃなく、なんらかの応援をしてくれてもよかったのじゃないかな。日本人は中国政府にではなく中国人や武漢の人たちに応援を続けたが、英米はもう少し日本国民に寄り添ってもよかったのじゃないか、と思う。まあ、下船した方々をあっさり横浜駅で解散させちゃう日本政府なので、何を考えているのか、誰が指揮しているのか、世界各国はいまだに分からずにいるのかもしれない。フランスのように、国の予算を使って、避暑地に帰国者を一旦移動させそこでゆっくりしてもらい、感染拡大の不安が消えるのを待つことも出来たはず。作家の百田さん(面識はない)が日本政府を無能とおっしゃっていたけど、今のところぼくもそれ以外の言葉を見つけ出せずにいる。スーパーマンのような政治家が政権内に現れて、首相や政権中枢の人々の頬を叩いて目覚めさせ、国難になる前に救ってくれないものか、と人気テレビドラマのようなことを考える毎日だ。今からでも、やれることは全ての力を振り絞って、感染阻止にあたってもらいたいものだ。



一方、20日木曜日、フランスでは武漢に残っていたフランス人、30人が金曜日に帰還するというニュースが流れた。30人は今現在新型コロナウイルスが一番蔓延する地区からの帰還のようで、どこで隔離されるのかが注目されていたが、今回は南仏ではなく、ノルマンディーにあるBranville(ブランビル)のまたもやバカンス施設が受け入れることになった。前回は地中海に面した保養地での隔離だった。今回、ノルマンディーが選ばれたのは心地よく過ごせる風土的な理由が大きかったようで、大小4つの空港と、感染症専門の大学病院が近くにある。隔離される30人は全てコロナウイルスが陰性の人たち、明日から14日間隔離生活を行う。実はバカンス休暇時期真っ最中の受け入れ決定に、戸惑う近隣の人々や驚くバカンスで訪れている人々もいたようだが、南仏でかなり厳重に隔離生活が行われたという前例があるだけに、パニックになる人は出ていない。観光大国フランスではこれまで300人以上が武漢から帰還しているが、全ての人を例外なく強制的に保養地で隔離している。今日現在、フランス国内での新型コロナウイルス感染者は12名(うち、7人が軽症で入院中、4人が退院、1人の中国人旅行者が死亡)である。