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「新型肺炎、日本政府の対応への疑問と絶望」 Posted on 2020/02/16 辻 仁成 作家 パリ

イギリスのとある学校に通っている日本の親御さんからの情報だが、「日本を含むアジア諸国に行った子供は症状があるないにかかわらず14日間登校を禁じ、自宅で経過観察をするように」というおっ達しが出たのだそうだ。正直、びっくりした。イタリアでは先月末にすでにこのような対応をした学校があって批判を集めていたが、今後、この流れが世界各国に広まるのかもしれない。今の状態が続き、日本でも「流行」となると、ぼくも仕事で日本に行ったはいいが、戻ってこれなくなる日がくるかもしれない。ぼくの息子などは、6月にイギリス留学を控えているので、どういう目で見られるか、親として不安が募る。

「新型肺炎、日本政府の対応への疑問と絶望」



思えば原発事故が起きた後、暫くのあいだ、日本は放射能をまき散らす国と言われた。あの時も海外で暮らす日本人は後ろ指を指されるような思いを堪えなければならなかった。日本人を見つけると近寄らない人たちがいたし、日本のゴールキーパーが試合で好セーブを果たすと「放射能で腕がたくさんある」などと司会者が差別的な発言をしぶつ物議を醸した。あれから年月が流れた。当時の苦しみは薄れたが消えたわけではない。そして福島が元通りになったわけでもない。実際には厳しい状態がいまだ続いているのだけど、それをなんとか国際的に誤魔化すことが出来たという自負が政府にあるのかもしれない。ぼくらも出来るだけ見ないようにしてきたように思う。一部の人たちが抗議を続けていても福島以外の人にとってはもう遠い出来事…。今回の新型肺炎が東京や日本各地で「流行」という段階に入ったら、あの時の経験は生かされるのだろうか、と考える。

今回の武漢にはじまったコロナウイルスの拡大は福島原発事故の時と同じような目が中国と中国国民に向けられている。武漢はこれから暫くのあいだ、国際的にはFUKUSHIMAと同じようなイメージを受け続けることになるだろう。でも、中国政府は武漢や周辺の都市を封鎖し、国力を投じて、それは共産主義体制だから出来ることかもしれないが、ぼくらの想像を超える力で封じ込めにかかっている。あのような対応は日本政府にはできない。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」はもはや世界にとって小さなFUKUSHIMAになりつつある。国際的な批判は百歩譲って気にしないとしても、ここで起こっている感染の拡大率は尋常じゃないし、ただ経過観察をしているとしか思えない他人ごとの対応にはどうしても疑問を感じる。

昨日の東京都の新型肺炎への記者会見には驚きよりも絶望が広がった。法律的な拘束力がないので、感染の疑いがある人たち全員を検査することが出来ていないし、その人たちの仕事を休ませる強制的措置もとることができない。なので、今後も感染が疑われた人たちが働き続けるということであり、感染の疑いがあっても強制的に検査はしない、ということなのだろうと認識をした。もう目の前にコロナの流行が迫っているというのに手をこまねいて見ているしかないのであろうか。武漢を封鎖するようなことはは出来ないにしても、もう少し思い切った措置を講じてほしい、と、苛立っている人も多いのじゃないかと思う。内閣支持率が一月の調査より8,4%急落したという。