JINSEI STORIES
「リヨン、光の祭典」 Posted on 2016/12/22 辻 仁成 作家 パリ
クリスマスイルミネーションの季節になった。
フランス第二の都市、リヨンでは毎年、12月に盛大な光りの祭典(Fête des Lumières)が開催される。
市内各所の歴史的な建造物が光りアーティストたちによってライトアップされる。
フランス最大級の光りのイベントである。
国道6号線を460キロも運転し、ようやくたどり着いたリヨン市。
南仏への旅の途中に通過したことはあったが、市街地に降り立ったのは初めて。フランス第二の都市と言われているが、人口は50万人程度。しかし、車が市内に入った途端、私の心と目は奪われてしまう。
ソーヌ川とローヌ川に挟まれた旧市街の眺めはパリがかすむほどに美しかった。
日中、川沿いを息子と散策しながらフルヴィエールの丘に聳えるノートルダム大聖堂を眺め、そのあまりに長閑な光景に時間が過ぎることさえ忘れ、ベルクール広場のブラッスリー、エスパスでは伝統料理のクネルとリヨネーズサラダを味わい、ユネスコの世界遺産に登録されている石畳の旧市街では迷子になった。
夜はいよいよ聖母マリアに光りと感謝を捧げるフランス最大の光りの祭典へ。
去年はテロの影響で中止に追い込まれ、今年は警察がものものしく取り囲む旧市街地だけでの開催である。
私たちはまず全体を眺めたくフルヴィエールの丘に登った。
ノートルダム大聖堂の敷地から観光客らに交じって市内全域を見下ろした。
リヨン全体がまるで宝石のように浮かび上がる。
函館の夜景に慣れている私だったが、ここも、負けずと美しい。
丘を下り、警察の持ち物検査を抜けて、開催地区へと踏み込んだ。
とにかく、ものすごい人出である。前回は400万人もの人が集まった。
今回は開催地区が制限されているので、どのくらいの人出かわからない。
当ウェブでも執筆してくださっている照明デザイナー、石井リーサ明理さんが受け持つ市庁舎を目指すも、人が多すぎて、なかなか前に進むことができない。
やっとの思いでたどり着くも長蛇の列。石井さんに電話をして、私と息子は裏から中へと入れていただくことになった。
歴史的な市庁舎に光ファイバーを利用した近未来的な幻想アートが明滅する。
リヨン全体が光りアーティストたちによってこのようなカンバスと化している。
実に壮大であまりに美しい企画ではないか。私と息子の目に青い光りの帯が焼き付いた。
リヨン市全体が闇の中で美しく光り輝き、テロのない平和な世界を願っているように見えた。
まさに祈りの祭典である。