JINSEI STORIES
人生は後始末「人生の演出」 Posted on 2018/02/21 辻 仁成 作家 パリ
舞台演出のため、今回の東京滞在は40日に及ぶ。
若い役者たちと膝を突き合わせての稽古期間が終わり、いよいよ、2月22日に初日初演を迎える。
原作「99才まで生きたあかんぼう」は2003年に上梓。その時、小生はパリで暮らし始めていた。
家族が3人になることを夢見ながら書いた作品であった。
息子は2004年1月に生まれた。
パリで書き上げた戯曲がまもなく東京で上演される。
6人の若い役者たちと毎日、葛藤があり、笑いがあり、励ましあい、奮闘があり、切磋琢磨した。
毎朝、稽古場へ行くと、元気のいい声が飛び交った。生意気なことを言う連中だったが、実に面白かった。
小生は素直に従うやつよりも多少生意気な奴が好きだ。
若いが役者としての持論がある。
それをきちんと聞いてやり、自由に演じさせながらも、びしっとしめて、
最後は自分の思い通りのところに着地させる。
まず、その連中を知り、その連中の心をつかみ、たぶらかし、時には叱り、時にはなだめ、褒め、罵倒し、時には肩をたたき、時には抱きしめ、最後は彼らの全力を舞台上で絞り出させるのが演出家の仕事だ。
人たらしである。
みんな快く騙されたいし、快く燃えたぎりたいのだ。
人生を演出するのとなんらかわらない。そうだ、人生の演出。
総勢30人ほどの大所帯を指揮するのだから、相当なエネルギーと根気、忍耐、ガッツがいる。
でも、だからこそやりがいがある。
自分が何もない真っ白な原稿用紙に最初の一字を書いた。そこから物語の芽が出て、それは天へと枝葉を伸ばした。
小説が戯曲になる時、二次元から少し輪郭が浮かび上がる。それを役者たちが演じれば、平面は立体へと動きだす。
最初は一点だったイメージがまもなく世界を作り上げる。
そのイメージを個性的な役者たち一人一人に伝えていく。
彼らが理解したものを導き、指導し、広げていかなければならない。
一丸になってやらないと一つの宇宙にはならない。
さあ、最終稽古が終わり、私は大変満足している。
なぜなら、そこに原作を超える宇宙ができ上がったからだ。
小説は書棚から取り出し、再度読むことができる。
映画は映画館やDVDで同じものをもう一度拝むことができる。
しかし、舞台は観劇後、消え去る。消える。映像も残らない。この圧倒的なライブ感、まさに今という瞬間にのみ存在する。
路地に一瞬不意に現れる光りの模様のようなものだ。
舞台「99才まで生きたあかんぼう」は小生の代表作になると確信した。
何かを成し遂げる時、謙虚に思うことがある。
「人間はずっとあかんぼうなのだ。死ぬまで一人のあかんぼうなのだ」
舞台「99才まで生きたあかんぼう」
【原作・脚本・演出】辻仁成
【音楽】SUGIZO
【出演】村井良大 松田凌 玉城裕規 馬場良馬 松島庄汰 松田賢二
公演スケジュール
〇東京公演
2018年 2月22日(木)~3月4日(日)
会場:よみうり大手町ホール
※公演は終了いたしました。
〇名古屋公演
2018年 3月6日(火)~3月7日(水)
会場:名古屋市芸術創造センター
※公演は終了いたしました。
〇福岡公演
2018年 3月20日(火)
会場:福岡市民会館 大ホール
〇大阪公演
2018年 3月24日(土)
会場:梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
◉オフィシャルホームページ:http://99sai-akanbou.jp/