JINSEI STORIES
人生は後始末「アイスランドの後始末」 Posted on 2017/09/10 辻 仁成 作家 パリ
モスクワの真冬の赤の広場に立ち、ロンドンでは岡崎慎司選手の試合をスタッド観戦し、
ナポリではピンクフロイドが演奏したポンペイ遺跡を歩き、
ユーラシア大陸最西端のロカ岬で種子島へ通じる荒波を見つめ、デンマークからスウェーデンまでは海上列車で渡り、レイキャビックでは溶岩台地から吹き上がる間欠泉を見た。
2014年春からはじまった父子の旅は世界30都市以上に及んだ。
二人きりの暮らしが始まった2014年から、人生を立て直すための父子旅は始まった。日本、フランス国内も隅々まで回った。正直、こんなにたくさんの街を通過することになるとは……。
けれどもおかげで父子の絆は何よりも強くなったと思う。
アイスランドの旅は今年のバカンスの目玉であった。
夏に見ることのできるオーロラを見に行こうが合言葉だった。
我々の旅の仕方はとってもかわっている。
だいたい何も決めないで出かける。目的地とか観光地とかレストランなんかでさえも。
旅の初日、そこへ向かう途中でどこへ行くか相談をする。
むしろついてから気が向くままに、嗅覚で? 探しまわる。ガイドブックなど持ち歩かない。
ガイドブックに載ってる店はどこも観光客で溢れており、そういうものを食べたり飲んだりしたいとも思わない。
空港の案内所に立ち寄り、地図を一つ貰う。最大の情報源である。
レンタカーを借りたはいいが、さて、どっち? みたいな旅の始まりになる。
けれども、旅というのは史跡巡りも悪くはないが、どこも大混雑。訪れた場所に自分たちの匂いを付けて帰るような旅が好きだ。毎日同じカフェに顔を出し、店員さんらと友達になる、とか。場末のレストランに入り、地元の人が食べているものを食べたり。
出来ることなら観光客のいない場所を探して行動をする。
ゲイシールの間欠泉はすごかったけれど、100%観光客だった。しかし探せば観光客のいない地元の人間だけが集まる場所がある。そういう情報はガイドブックにはなくて、カフェなどで情報を収集する。
そして大事なのは行動力と嗅覚だろう。
今回、出会えなくても次回また出会えるね、くらいの余裕が大事。
宿の周辺をぐるぐる回ったりすると、庶民の声が聞こえてくる。
そもそも通貨危機、経済危機で破綻寸前だったアイスランド、ところが2010年のエイヤフィヤトラヨークトル火山の噴火! 政府はこの噴火を利用してやけっぱちの観光宣伝、これが功を奏し、ゲイシール間欠泉などに観光客が殺到した! 貧しかった国の経済成長率は去年(2016年)7%をこえ欧州一になる。
人口33万人の国に220万人もの観光客が詰めかけ、物価を押し上げた。
道はレンタカーで大渋滞。市民が家を借りたくても住宅価格高騰で買えなくなった。静かだったレイキャビックは一転観光客で賑わうようになる。地元民は観光客をどうも嫌っているような印象を受ける。
コンビニのドリップコーヒーが700円もする国はそうはない。
なのに少し前まで経済破綻を強いられていた貧しい国であった。
レイキャビックのかわいらしさはアイスランド人がいるからでこそ。
その彼らが郊外に追い出され、市内に家を買えない状態が続く。高価な家は外国人のセカンドハウスになっている。
観光というものは流行り廃れがあるので、ブームが去れば、人があっさり消えていなくなるかもしれない。
とはいえ、小生も含め、旅行者は今のアイスランドの自然を見たい。
観光客の自分が偉そうなことは言えません。
けれども、観光客の皆さん、せめて自分が出したゴミくらい、ちゃんとゴミ箱にいれましょうね(笑)。
今日の後始末。
「目的地のあるものが旅行。目的地のないのが旅」