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人生は後始末「失われた世界の希望」 Posted on 2017/06/10 辻 仁成 作家 パリ

先週、ロンドンのバラストリートでテロがありました。
まさに小生がロンドン入りした直前のことです。
そして、3日後、仕事を終えてパリに戻ると、今度はノートルダム寺院でテロ。
ロンドンもパリも、いや欧州のあちこちでテロが日常化してきました。
これはもうテロというより、敵の見えない戦争です。
残念なことですが、テロがなくなることはもはやあり得ない……。
テロの恐怖と共生しなければならない時代になりました。

4月20日、シャンゼリゼ通りで大規模なテロがありました。
警察官が殺害されています。
その場所の真裏に息子の親友家族が暮らすアパルトマンがあります。
アレクサンドル君、母親のリサ、父親のロベルト、仲良し3人家族です。
小生の息子にとっては家族のような存在、私にとっては恩人です。
アレクサンドル君と息子は幼稚園から一緒、まさに兄弟同然で育ってきました。
小生が日本出張の時には彼らが息子を預かってくれます。
息子のパジャマや歯ブラシが彼らの家には常時用意されているのです。

テロ当日、銃声が轟いた直後、大勢の人々が彼らの家のベルを鳴らしました。
そして「助けてほしい!」と叫びながら流れ込んで来たのです。
優しい彼らはもちろん家を開放し、そこは避難所と化しました。
これらの写真はその直後に撮影されたものです。
 

人生は後始末「失われた世界の希望」

人生は後始末「失われた世界の希望」

 
テロが日常生活のすぐそばにあることがわかります。
いちいちニュースになることはありませんが、テロ現場のすぐ近くで普通に起こっていること……。
テロが収束すると人々は再び自分の世界へと帰って行くのです。

逃げて来た人々の中に、その日、誕生日を迎えた若い女性がいました。
ロベルトとリサが怯える彼女のために即席でケーキを作ったのです。
その子の誕生日をそこに集まった人々全員で祝いました。
この蝋燭の炎に微かな人間の希望が託されている気がします。
 

人生は後始末「失われた世界の希望」

 
シャンゼリゼでテロがあった前日、息子はアレクサンドル君の家にいたのです。
もし、テロが1日ずれていたら、もしも、息子が何かの理由でシャンゼリゼを歩いていたら、
想像すると恐ろしいことです。
その、もしも、に遭遇する可能性はゼロではありません。
小生は毎日考えています。毎日出口を探しています。
でも、答えは風の中になんかはない。
小生は蝋燭に灯された炎を思い出すことにしています。
 

人生は後始末「失われた世界の希望」

今日の後始末。

「人類は試されています。全ての人の未来を」