JINSEI STORIES

父子旅日記「幻想的なモロッコ、カサブランカへの父子旅」 Posted on 2022/05/06 辻 仁成 作家 パリ

 
モロッコのカサブランカといえば、ハンフリー・ボガード、イングリッド・バーグマン主演の映画「カサブランカ」を思い出す。
そのカサブランカについて書きたい。
数年前に、ぼくは息子とカサブランカを旅した。
それはとっても幻想的な旅行となった。

カサブランカにある巨大な「ハッサン2世」モスクは、旅行者も中に入れるので、おススメである。
モロッコの先代国王ハッサン2世が、世界に誇るモスクをカサブランカに、という願いを込めて建設した。
8年もの歳月をかけて、モロッコ最大級のモスクを作り上げた。
高さ200メートルの世界最大のミナレット(尖塔)が有名だ。
モスクの礼拝堂には約2万5000人、敷地には約8万人を一度に収容することができ、足を踏み入れればその巨大さ、広大さに圧倒される。
モロッコ中の技術者が集まって腕を競いあったそのイスラムアートは必見である。

息子と二人でふらりと訪れたカサブランカ、そのイスラム的アートのイメージは作家に刺激を与えた。
まさに隅々まで幻想的空域が広がっている。
思えば20年前、はじめてモロッコの観光地マラケシュの旧市街を歩いた時に、その異世界の美しさに感動をし、いくつかの小説の構想を思いついたのだった。

父子旅日記「幻想的なモロッコ、カサブランカへの父子旅」

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ぼくらはハッサン2世モスクのすぐ近くにあるホテルに宿泊した。
イスラム教国だから、この国のホテルには基本アルコールがおかれてない。
実際は、どうやらこっそりと飲んでいる人も多いらしいが、あからさまな販売は出来ない。
だから、ぼくはアルコールの飲めるホテルやレストランを探すことになった。
なにせ、部屋のミニバーにさえ、一切アルコールが置かれていないのだから。

そのことをフロントで告げると、ごめんなさい、ここから2キロほど先のスーパーで買えます、という返答。
やれやれ。
 

カサブランカでモスクの次に行くべきところはスーク、市場だ。
市場といってもパリのような洗練された市場を想像してはいけない。
売れるものは何でも売る、どこか闇市のような、しかも延々と続く広大なマーケットで、交渉次第ではタダ同然で買うこともできるし、しかも、掘り出し物にも出会える。
ぼくは古いカーペットを買った。
パリで買えば数万円はするようなものを数千円程度で。
きちんと交渉をすればとってもお得だけど、逆にぼったくられることもあるので注意が必要だ。買う気がない、という顔をしながら、上手に騙されつつ、相手の懐に飛び込み、最大限有利な条件を導き出す。
これが市場での交渉術である。

父子旅日記「幻想的なモロッコ、カサブランカへの父子旅」

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ハワイやグアムになれている日本人にはモロッコはちょっと洗練されていない世界に映るかもしれない。
でも、欧米人はそういうものを求めたり、何が起きるかわからない旅を好むのでドイツ人やフランス人の観光客が多い。
韓国人や中国人の方も目立つ。
たしかに洗練されたものはここには少ないけれど、逆に、スリリングな北アフリカの伝統と文化と友愛がそこかしこに溢れている。
モロッコ人は本当に優しい人が多いので、怖がることはない。
ひとたび仲良くなると生涯の友人になれる。
心優しいモロッコ人に囲まれていると心が穏やかになる。

観光にも飽きたら、海を見に行くのがいい。
大西洋に沈む夕陽を見ることが出来る。
スペインやポルトガルよりも太陽が近い気がする。
そして、赤い気がする。

父子旅日記「幻想的なモロッコ、カサブランカへの父子旅」

 

 
夜、お腹がすいたので、ぼくたちはタクシーを呼んでコルニッシュ通りにあるレストラン BASMANE へと向かった。

「まず、カサブランカ・ビール!」

息子が、やれやれ、と苦笑する。
ほとんどの客が外国人旅行者。
もちろん、そこで出される伝統的なモロッコ料理も美味しかった。
モロッコ料理はどこか日本の味に通じるものがある。素材を丁寧に生かす料理だからかもしれない。
そして、ふいに明かりが消えると、ダンサーたちが登場し、ベリーダンスを踊り始めたのである。
踊り子たちのダイナミックな踊りを眺めながら、モロッコワインに舌鼓を打った。
イスラム教国なのに、実はビールも生産しているし、モロッコワインは濃厚でフランスでも大人気。
3~4割くらいの男性はお酒を嗜むのだそうだ。
飲む人と飲まない人の差が気になったが、それ以上は詮索しないことにした。
 



父子旅日記「幻想的なモロッコ、カサブランカへの父子旅」

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父子旅日記「幻想的なモロッコ、カサブランカへの父子旅」

 
ホテルに戻ると、テラスの一角にある暖炉で人々が寛いでいた。
たき火を楽しむような感じで・・・。
みんな何か美味しそうなものを飲んでいたが、もちろん、それはカクテルではない。
カクテルのようなジュース…。
人々のひそひそ話が夜の風に馴染んで心地よかった。ぼくは酔っていたのでホテル自慢のパフェを注文した。
息子と仲良く半分ずつ食べることにした。
暖炉の炎に縁どられたパフェの器がアート作品のように輝いて見えた。
「パパ、静かだね」
「うん、穏やかな世界だね」
 

父子旅日記「幻想的なモロッコ、カサブランカへの父子旅」

 
心地よいベッドで眠り、翌朝、鳥のさえずりに起こされた。
窓を開けると、遠くに大西洋の金波銀波。
ああ、これはすごい、と思わず唸ってしまった。

今日は一日アルコールを抜いてみよう、と心に誓いながら……。
やれやれ。創作のためという名目の取材旅行は続く。
作家というのは、旅を通して、ヒントを得ている、実に、ずるい職業じゃないか。
それはそれで、大変なのだけど、遊んでいるようにしか見えないって?
あはは。
ともかく、幻想世界のモロッコは、創作の宝庫なのであった。
 

父子旅日記「幻想的なモロッコ、カサブランカへの父子旅」



今日も読んでくださり、ありがとう。
そして、父ちゃんからの教えらせです。
6月30日、マガジンハウスより「パリ、ぼくと息子の3000日」が発売になる予定。

さらに、
辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ
Jinsei Tsuji Acoustic Serenade From Paris
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【ビルボードライブ大阪】(1日2回公演)
8/8(月)1stステージ 開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ 開場20:00 開演21:00
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発売日
Club BBL会員、法人会員先行=6/6(月)12:00正午より
一般予約受付開始=6/13(月)12:00正午より

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