JINSEI STORIES
滞仏日記「たまーに、マダムと呼ばれる父ちゃんからのまじめな提案。えへへ」 Posted on 2022/10/21 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ぼくがフランスでよくマダムに間違えられるという爆笑日記は昨日書いた通りだが、電話だとほぼ100%マダムと呼ばれる。
なので、最近は言い返さない。←言い返さないんかい? マダムになりきってるんかい? げげげ、きもいわー。嘘です。言い返しますが、面倒くさくなる時はあります。いちいち、ぼくはムッシュなんですよ、というのが・・・。てへへ。
声が男性にしては高いのだ。そして、かすれているので煙草をよく吸う年配のマダムと思われている節がある。
ラテンの男たちは体形も声も雰囲気もアジア人の男性と比べると分かりやすいくらいに見かけが大きく異なるので仕方がない。声も数倍太いのである。
きっとぼくだけじゃなく、マダムと呼ばれる日本男性も多いのじゃないか、と思う。
これが日本に入国すると100%だれも間違わないのである。
フランス人はちゃんと人を見ないで、服装とか印象で決めつける人が多いのかもしれない。ジェンダー論を語るよりも、この呼び方もなんとかできないのか、と思う時がある。
或る時、店の人(ボンマルシェ・デパートの店員さんであったが)に、マダムと呼ばれたので、
「いいえ、ぼくはね、ほら、ムッシュなんだよ」
と返したら
「セパガーブ、(気にすることじゃない。たいしたことじゃない)」
と言われた。唖然。
あんたには大したことなくても、俺には多少だけどたいしたことがあるんだよ、と思ったけど、ううう、言い返せなかった。あはは。
「マダム」
と言われたので、
「ぼくはムッシュだよ」
と返すと、
「だって、髪の毛長いし、ブーツ履いてるし、鼻がちっちゃい」
と言われたことがあった。イタリアンレストランのおやじに。
「でも、鼻が小さいのは親のせいで、髪の毛が長いのはロックミュージシャンで短いのが嫌いだからで、しょうがないでしょ」
「すまんすまん。マダムって言われるのを喜ぶ男性もいるからさ」
ときた。
で、この間、カストラマという工事用品屋のケッス(会計)に並んでいたら、明らかにレディボーイさんが来たので、つまり、歩き方、服装、喋り方、どれをとっても、めっちゃマダムなんだけど、
「マダム、お先にどうぞ」
と進めたら、
「あのね、マダムじゃないわよ、わたしはムッシュよ。ふん」
と怒られた。こういう時、レジの人はというと、絶対に反応しない。じっと何も聞こえないフリを決め込んでいる。
ということで、何が言いたいのか、というと、そういうかっこうをしていても、マダムと言われるのが嫌なムッシュもいるし、その逆もある。とにかく、それがこの多様性社会における自由というものの正体なので、ここは、問題が起きたら、相手を尊重するのがいい。
きっと、問題は心にあるのだと思う。
人が決めつける男性、女性というカテゴリーって、大きな意味で、二者択一しかないので、そこからどうしてもこぼれてしまう人たちもいて、それはそれで、人間を二つに分類することは21世紀的には難しいことでもある。
「辻さんは、お料理とかお上手で女子力高いですね」
とある女性新聞記者さんに言われて、ちょっとだけ、忠告したことがあった。
「あなたのようなメディアで活躍する方が、女子力高い、という言葉は出来れば使わない方がいいですよ」
料理が上手なことが、女子力、だというのは誰が決めつけたことなんだろう。
よく考えてほしい。みんなが何気なく使う「女子力が高い」、これは難しい。
男女の差を決めつけない「人間力」という言葉に置き換えられたらいいよね。
そういう話、でした。あはは。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
辻さーん、マダムって言われるのが嫌なら五分刈りにして、髭ボウボウにしたらいいんじゃないですか、という人もいました。でも、それ、違うでしょ?