JINSEI STORIES
滞仏日記「満面笑顔の息子。こんな息子くん見たことがない。戸惑う父ちゃんの巻」 Posted on 2022/08/23 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ぼくには土日も、なんなら夏休みさえない。ほぼ一年中、働き続けている。
書くことは「呼吸」と一緒なので一日たりと止めることは出来ないし、ギターの練習だって時間をみつけては続けている。
どこまでを仕事と線引きするのか、難しいところだから、たとえば、こういう日記なんか(これも365日毎日、休んだことはないけれど)を仕事にカウントすることもない。
好きでやっていることは全部楽しいことなので、苦痛にはならない。
そもそも、心と身体を破壊するような、苦痛になるようなことはやらない・・・。
ただ、小説もライブも映画も全部、大変だけど、仕事というより好きなことの延長戦上にある創作なので、休みがなくても、へっちゃらなのであーる。
しかーし、それにしても、この夏は駆け抜けた。
実は7月も、映画の準備をしながら撮影が断続的にスタートしていたので、本格的なクランクイン以前にもかなり作業は進んでいた。
途中にビルボードのライブ4本があったし、日本のコロナ状況もすごかったので、体調維持には超・神経を使った。
なので、今はぐったりぽんなのだ。
三四郎とソファで戯れながら、頭は空っぽ、なーんも考えていない。(といいながら、日記書いとるやないか)・・・でへへ。
息子が25日に戻って来るので、引っ越し屋さん探しとか、さんちゃんの散歩とか、やることは一応、たくさんある。でも、後回しにしながら、今はごろごろ、わんわん、浮遊父ちゃん、ふわふわ~。
と、そこに親戚(はとこ)のミナから息子の写真が送りつけられてきた。おおお!
どの写真もすべて息子の超笑顔の写真じゃあーりませんか!
BTSじゃないけど、アイドル歌手のような髪型とスマイルなのであーる。
ほー、こんな笑顔、うちで見たことがないのォ。(お見せ出来ないのが残念ではあるが、すべての写真がスマイル。へー、かわいい)しかーし、げせんの~。
何で、家の中で、笑顔にならないのじゃ。
携帯の写真を覗き込む、父ちゃん。
すると、横から三四郎が覗き込んで、ペロっと舐めた。
あはは、知ってる? この子、知っとるやろ? 十ちんだよ。
今、日本の埼玉県の親戚の家に転がり込んでそこの家族たちと一家団欒ごっこをやってるんだよー。
ミナのところには、メミ、ユウシ、ケイシという3人の子供たちがいる。
みんな十斗よりも年上。
医大生のメミが年齢が近く、べったりしているようだ。その子といっつもくっついて過ごしているんだとか・・・・。
「ひとちゃん、すごいよ、今日、十斗がね、テラスのバジルをつかって、ジェノベーゼのパスタを作ってくれたんだよー」
「ほー」
写真が送られてきた。
おおお、バジルをミキサーでペーストにしているではないか。
ぼく、教えたっけ? 独学かもしれない。
どんどん、料理の腕をあげている息子君であった。
「素晴らしい」
「うん、美味しかったよ」
そういえば、福岡であいつがぼくに言った言葉を思い出した。
「ミナちゃんのところにいると、これが家族というものだって、わかるんだ。こんなに暖かくて居心地のいい場所があるって。これが、家族の本当のカタチなんだって、わかったんだ。だから、ミナちゃんの家に行くのが好きなんだよ」
※ これは今日、エステルのお店で食べた牛肉のカルパッチョの前菜。美味しかった。
時々、こういうことをストレートにぶつけてくる。
彼の本心なのであった。
だから、こんな笑顔が出来るのだろう。
ぼくと二人きりの時には見せたことのない顔・・・。
ぼくの母さんや恒ちゃんといるときにも笑顔にはなるけれど、もっともっと巨大な太陽のようなすごい笑みなのである。
幸せを全身で訴えている笑顔だ。
「パパとミナちゃんって顔がそっくりだよね。だから、落ち着くんだよ」
「ああ、一族の中では一番似てるかもしれないなぁ」
「うん、だからぼくとメミも似てるんだろうね。そういうどこか似ているというのが、ぼくはうれしいんだ。わかる?」
ということで、息子はあと数日、埼玉で過ごし、パリに戻って来ることになった。
戻ったらすぐに引っ越し、そして、アルバイトと大学生活がスタートする。
少なくとも、あいつが戻って来るまでの残り、3日間が「ぼくの夏休み」ということになるのかもしれない。
つづく。
ということで今日も読んでくださり、ありがとうございます。
今、ぼくの足元にいるさんちゃんですが、NHKの方に頂いた「噛み癖の直るおもちゃ」に執着しています。いや、しかし、ちょっと・・・。なんか、大丈夫でしょうかね。