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滞仏日記「パリ無期限デモが年を越しそうな勢いになってきた」 Posted on 2019/12/12 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、普段だったらタクシーワンメーターの距離が20ユーロ(2400円ほど)要求されたと観光でパリに来ている知人Aから連絡があった。空港から3時間もかかってパリ市内に入る観光客、しかもタクシーは長蛇の列だが完全に超不足。配車サービスは法外な金額に変更になっているし完全に足元を見られている状態で、もうどこにも行けない。いつもなら12ユーロで行ける場所に仕事で向かおうと思ってUBERのアプリを開いたら、52ユーロと出た。仕方ないので、ミーティングを来週に延期してもらうことにした。今、パリは交通マヒに襲われている。まるでちょっとした通勤交通戦争状態にある。



5日からはじまった無期限ストの影響はパリ市民を直撃している。学校や会社は休みじゃないので、市民は遠方から中心部を目指す。けれども中には2時間も歩いて通っている人がいる。息子のクラスにブルゴーニュ地方から通っている子がいる。週末は自宅で、ウイークエンドは寮生活だが、このストでブルゴーニュから戻って来られなくなった。つまり期末試験に欠席となったのだ。

市内、メトロは1番線と14番線が自動運転をしているが、それに乗ったという友人からぎゅうぎゅうのすし詰め状態でまるで難民船のようだったとメッセージが入った。通勤時の朝夕にバスが一部区間数本走っているようだが、バス停はどこも超人だかりで、乗る時に罵り合いや喧嘩も起きているという。バスにたまたま乗れた人間によると、中は戦争のような状態だった、らしい。中心地、観光地の歩道は人、また人で溢れかえっている。

ところが今日、フランス政府は労働団体の要求に対して「ゆっくりとだが着実に改革へ向かっていく」との回答を戻した。これを受け労働団体側は「国民をバカにしている」と応戦、無期限ストのさらなる延長を決めた。噂でしかないけれど、来年に持ち越す可能性があるとささやかれ始めてきた。それには歴史的根拠がある。

実は1995年にも年金改革に端を発した3週間以上(実質ひと月)も続いたストがあり、市民は団結して政府と対峙し、この時もパリは大混乱に陥っている。結局、当時の首相、アラン・ジュペが退陣し、市民の声が通った。今年、マクロン政権は「従来の年金制度が不公正でコスト高である理由は、年金制度が42にも分かれているからで、これを一本化する」と宣言、新たな制度の導入を発表したが、これに対し、優遇された年金制度を享受してきた公務員や労働者が反発した。ちょっと95年と構図が似ている。もっと凄いのはここに、すでに一年以上続いているあの黄色いベスト運動(ジレジョーヌ)が加わったことだ。



95年も雪が降る中、市民は長期間ストを支持したが、今年もそうなれば、パリは首都機能がマヒしたまま新年を迎えることになる可能性が出てきた。友人は自転車に乗って中心部まで仕事に行ったが、道はどこも大渋滞で殺気立っており、その友人から、めっちゃ怖かった、とSMSが届いた。ぼくも夕方、先のA君から「動けない助けてくれませんか」と連絡があったので、車の調子が悪かったが日本の仲間を見捨てられず、彼らがいる場所まで行こうとした。ところがどこもかしこも大渋滞でセーヌ川を渡ることが出来なかった。「すまん、自力でなんとかしてくれ」とメールをしたが、その後返事は戻ってこない。彼らの無事を祈るばかりである。※A君大丈夫だったかな?

このストがクリスマスを前にしたパリ市民に大きなストレスを与えていることは事実で、たとえば大人気のデパート、ボンマルシェもガラガラだった。要はクリスマスプレゼントを買いに行きたいけれど、そこへ行く交通手段がないのである。この時期にパリを訪れている、訪れようとしている皆さんは必ずスニーカーを用意されることをお勧めしたい。こういう機会を利用して、健康のために歩かない手はない。

滞仏日記「パリ無期限デモが年を越しそうな勢いになってきた」

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