JINSEI STORIES
滞仏日記「驚きと感動の息子の同窓会」 Posted on 2019/10/27 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、息子の小学校時代の同級生らが一同に会することになった。小学校入学から卒業までずっと一緒だった幼馴染みの、エミールとアレクサンドルとロマンとマークアレクサンドルとバディムとうちの子の6人が集結をしたのだ。同窓会してもいい?、と訊かれて、はいはい、どうぞ、と軽く受け流したはいいが、実際の彼らと対面して、ひっくり返ってしまった。
頭の中にはいまだ子供の頃のエミールやバディムがいたが、次々にやって来た彼らは、一番大きな子で195センチ、次が185センチ、次が180センチ、みたいな巨漢揃いで、ピンポンが鳴って、ドアを開けるたびに、おおおおお、君は誰~~、と唸り声が飛び出してしまった。き、君はもしかしてエミールか、君が、バディムかい!
「ムッシュ、ご無沙汰しています!」
あ~、よく来たね、さあさあ、どうぞ、と招き入れながらも、心の中では、めっちゃ、オヤジじゃん、でかっ、と可愛かった小学生の頃を懐かしみながら、思わず苦笑してしまった。そりゃ、そうだ、もうみんな高校生なんだもんなぁ!
息子と二人暮らしをするようになった、この子が小学5年生当時、前のアパルトマンで暮らしていた時のことだが、このメンバーがうちに集結したことがあった。落ち込んでいる息子を励ましにやって来たのである。その時の彼らは正義感にもえた優しい子たちで、女の子のようなキンキン響く声でサロン(リビング)を走り回っていた。暗かった部屋に光りが灯った忘れられない日となった。
彼らが帰った後、息子がぼくに、
「パパ、友だちがいる。ぼくは友だちを大切に生きて行く。ぼくは一人じゃない」
と言った。その言葉が今も耳に焼き付いている。
息子は友だちを大切に生きるようになった。今はものすごくたくさんの仲間に囲まれて、ほんとうに引っ張りだこなのだ。高校の同級生だけじゃなく、違う学校のバレーボールの仲間(パリ市のクラブに所属)、音楽関係の仲間たち、そこから広がったネットの仲間たち、ガールフレンド、そして小学校時代の幼馴染たち、…数えきれない友だちがいる。
飲み物とお茶菓子を出すとでっかい子供たちに占拠された子供部屋はムンとする男臭で溢れかえり、飛び交う声は野太く、まるでサッカー選手の控室であった。
「みんな、めっちゃ大きくなったじゃん」
当たり前のことしか言えなかった。正直、ちょっと怖いくらいで、マークアレクサンドルなど顔中髭だらけ。この連中が道端で屯していたら、間違いなく方向転換するに違いない。でかい。とにかくでかすぎる。
小学校の正門に息子を迎えに行くと、彼らが校舎から競いあうように走って飛び出してきた。学級委員のエミールを中心にこの6人は、差別主義者の給食配膳係の大人に対し、昼休みの間、連日抗議デモを繰り返した。それが最終的に校長の耳に入り、調査の結果、給食係が差別をしていたことが発覚、なんと解雇されるという結末に発展した。さすが、革命の国の子供たちだな、と思ったことがあった。息子が正義感強く育ったのもこのグループに所属していたからであろう。
「パパ、昔の写真ない?」
息子が言った。あると思うよ、と戻した。
「みんなで見たいんだ、ちょっと探してもらえる?」
「OK」
ぼくは古いハードディスクを引っ張りだし、「息子」と書かれたホルダーを開いた。息子に関する思い出は、すべてこのフォルダーの中にある。彼が結婚をする時にでも、一枚のディスクに焼いてプレゼントするつもりでいる。
すると、画面に彼らが小学生だった頃の懐かしい映像が飛び出してきた。それは、まるで映画のように…。思わず、目頭が熱くなってしまった。
そこに君たちがいた。