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滞仏日記「パリの行きつけスーパーが東京に進出した」 Posted on 2019/08/30 辻 仁成 作家 パリ

 
某月某日、最近、東京で展開するビオセボンという有機食材スーパーはフランスでとっても人気のあるチェーン店で、僕もほぼ毎日利用している。青山三丁目のビオセボンのレジにはフランス人の若い女性が立っていて驚いた。本国から派遣されている、とその子は言った。渋谷とか赤坂とか、あちこちに、出店が相次いだので、きっと日本のどなたかとの共同運用みたいなシステムなんだろうなぁ、とは思いつつも、おかげで有機野菜を探さないで済むので東京滞在ライフに充実の兆し。前は新宿か原宿の2,3軒しかない超専門店まで買い出しに行っていた。ついに東京も有機食材ライフに突入したということのようである。

僕が有機野菜にこだわるのは、もちろん、味も新鮮でおいしいということもさることながら、やはり普通の野菜が農薬に依存していることへの抵抗感があった。たとえば、僕は毎日、人参ジュースを健康のために飲んでいるのだけど、皮ごとジュースにしないと手間がかかり過ぎるし、皮に含まれる栄養は無視できない。有機の果物や野菜だとそのまま専用のミキサーにいれても安心だ。

フランスの有機系スーパーの広がりは本当に目を見張るものがある。一つの地区に一軒はある勢いだ。その上、普通のスーパーまでもが有機野菜や果物、肉などを置き始めたので、フランス人の有機食物の摂取率は驚くべき程に高くなっている。けれども、有機食材を扱う店が増える一方でそれがどういう環境で栽培され出荷されているのかという点も話題になっている。昨日はチャンネル2でその特集番組が放映され、チリやスペインなど外国からの輸入品の問題点についての検証が行われた。フランスはこういうことの裏を取る番組、たとえば有機栽培農家で働く労働者の劣悪な労働条件や、有機食材をどういう環境で育てているかについての潜入取材など、購入する側としてはとってもためになる番組が多い。フランスのBIO系スーパーで30%オフで売られている食材はだいたいが外国産だという番組の指摘に、思わず、へ~、と頷いてしまった。もともと普通の農家だった方たちが有機栽培農園に変更するケースも増えているらしく、生産者の顔が見える食材に安心を求める消費者の心理が話題になっている。そして、極めつけは、外国産の野菜じゃなく、自分たちの土地で育てられた身近な有機野菜を育てて食べようという運動が広がっている、という新たな流れだ。食料自給率にもかかわる大事な問題なので、ここは真剣に見入ってしまった。

僕は個人的に、野菜も果物も皮ごと料理に使う派なので、(生姜などは皮ごと擦ると苦味が増して超美味いのだ)、どうしても有機野菜に手が伸びる。神経質と笑われるかもしれないが、農薬をこれでもかと散布する映像をフランスの潜入番組ではしょっちゅう特集しているので影響を受けてしまった。これから日本でも有機栽培された食材がブームになるのだろうな、と思う。それは当然、有機系の食材作りに関わる農家が存在意義を増すということにも繋がる。日本のビオセボンはまだ日本のスーパーとの中間的なイメージだけれど、そのうち、本国に負けない質の高い有機野菜を提供するようになるだろう。もっともっと日本での有機野菜の普及が進むことをぼくは個人的に希望する。実は、日本の農業技術が次の日本を支えるのじゃないか、と僕は個人的に期待しているのだ。みんな工業製品にばかり目を向けているが、これからは野菜だと思う。皮ごと齧る野菜や果物のおいしさを、その体へのいい影響を、もっと多くの日本人に知ってもらいたい。 
 

滞仏日記「パリの行きつけスーパーが東京に進出した」