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滞仏日記「日本で蕎麦を爆買いする理由」 Posted on 2019/08/01 辻 仁成 作家 パリ

 
某月某日、明日、パリに戻るので、お土産というよりも自分で食べるための日本の食材を買うためにスーパーを回った。日本入りする前から、これとこれだけは買っておこうというものは決めてある。米、みそ、めんつゆ、柚子胡椒、高野豆腐(最近フランスでも健康食として大注目)、切り干し大根、干しシイタケ、などだ。フランスでも買おうと思えば買えるものばかりだけど、二倍から三倍も高いので、なんとなくフランスでは買いたくない。そういえば、日本に入っているフランスのものも(輸入税の関係で)だいたい二倍から三倍はするのだけど、シャンパンだけはだいたいどこもフランスと同じ金額なのはどういう企業努力というのか業界努力のたまものであろう。シャンパンだけはフランスと日本は金額が同じなのである。フランスで割とポピュラーな(?)マームがスーパーで4000円だった。フランスだと32ユーロくらいなので、3900円程度だから、ほら、一緒だ。

しかし、日本食材の中で、僕が買って帰る比率がだんとつに他よりも多い食材がある。それは蕎麦だ。なぜうどんじゃなく、蕎麦なのか、というと、うどんは比較的簡単に自分で打つことが出来る。しかし、蕎麦はなかなか打てないばかりか、自分でやっても美味しくできない。水が違うからである。その上に、フランスで日本の良質のそば粉が手に入らない。これは買うしかない。フランスにも蕎麦屋があるけど、かなり頑張っているとは思うけど、日本で食べる蕎麦との決定的な違いは「水」である。

うちは蕎麦をゆでる時から日本の水に限りなく近い水を探し出して、作るこだわり。乾麺でも、かなりクオリティが高いし、ものによっては乾麺の方が美味いものもある。僕はもちろん十割蕎麦が好きというか、それを求めているのだけど、最近8割蕎麦くらいがちょうどいいことに気づいてきた。でも、カップ麺の蕎麦なんかも買ってるので、僕のうんちくはその程度なのである。(どんべ~、は美味い)しかし、蕎麦の美味さはなかなかフランス人にはわからない。伝わらない。世界最高峰の舌を持つフランス人だけど、蕎麦だけはわからないという人が多い。しかも、あの「ずるずる~~」という音がダメみたいで、ま、わかるけど、あれがうまかったりするんだよな。ということで、今日も、大量の蕎麦を買った。トランクの半分は蕎麦関係で占められているのだから、蕎麦好き過ぎるやん、と息子君に笑われてしまった。自宅で日本を思いながら食べる蕎麦がこれまた美味いんだよね。

※ そして、話題の宮崎の辛麺も!
 

滞仏日記「日本で蕎麦を爆買いする理由」