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滞仏日記「パリツアーを僕が企画したら」 Posted on 2019/07/27 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、フランスの携帯が壊れたことで困るのはフランスの仲間たちと連絡がとれないことだ。一番困るのは政府や電力会社、銀行、息子の学校などからのお知らせがSMSで届く場合が多く、確認できない。ホテルのランドリーで破壊されてしまった携帯の影響がじわじわと出てきた。フランスにもラインのような通信手段、ワッツアップが普及している。フランス人はほぼこれで連絡を取り合っているのだけど、息子が世話になったリサやロベルト、オディール、ステファニー、エリック、その他大勢と連絡がつかない。とにかくパリに帰って新しい携帯を買い、壊れた携帯から救出したシムカード(ちょっと歪んでいた)が機能してくれることを願うばかりである。まず、そこが大丈夫なら、僕はこれまで使用していた電話番号を再び使えるようになる。もし使えない場合、何が困ると言って、生活そのものへの影響が出てくる。何せ、市役所、政府関係、警察、税務署、ありとあらゆるところにこの番号が登録されているからだ。いわば電話番号で身元確認なんかをやる。たとえば銀行のクレジットカードを使う場合でも、まず、SMSに暗証番号が送られてきてそれを打ち込まなければならないのだから、うう、暗くなる・・・。

閑話休題。

最近、旅行代理店さんから「辻さんおススメのパリツアー」とか企画してもいいでしょうか、という依頼が舞い込んでくる。それがここのところ頻繁に来るようになって、というのも、テロとか黄色いベスト運動の後、パリが危険だと思われがちになり、パリ旅行にも新しい要望が生まれてきたらしく、聞いていると切実だなぁ、と思うに至った。パリは、生活してみればわかるのだけど、実際、ぜんぜん危険ではない。ピンポイントで怒る事件が世界中を駆け巡るのだが、それに一番敏感に反応をするのは日本人とアメリカ人ということになる。(なんでかな?)

もし、僕がパリツアーを企画したらどんな感じになるだろう、と考えると、ちょっと楽しくなってきた。あと2年で在仏20年になるので、気が付くと東京に負けないくらいの滞在年数ということになる。旅行社が紹介するパリって、いい意味でも悪い意味でも決まり切ってるから、それはそれで初心者には面白いのだろうけど、何度かパリに来たことのある方々に、そういうのとは違う生活者が紹介するパリツアー、史跡巡りとかコースにあんまり入ってない、普通の住宅地のカフェで待ち合わせるパリ、とかどうでしょう?

本誌、デザインストーリーズも創刊から4年目になった。仲間やライターさんたちもパリ周辺だけで数十名に増えた。月間100万PVって、個人でやってるウェブサイトマガジンにしては、どうやら凄い数字らしい。(朝日のwithnewsの編集長さんに褒められた。うれぴい)コツコツとやって来たこの取材力を生かして、DSパリツアーとかに役立てたらなあ、とか思う。そもそもパリDSガイド地図アプリを作るとか、面白いじゃないか。ともかく、生活の匂い香る美味しいもう一つのパリを知ってもらいたい。あ、dancyuの連載も好評らしいから、dancyuパリツアーとかもいいかもね、ね、植野編集長。とにかく、膨らむ夢はひとまずおいといて、まずは携帯を新しくしなきゃならない。いやなことを忘れるために、人は楽しいことでわくわくすればよいのだ。ちょっとすっきりしたかな。ここまで読んでくれて、ありがとう。

滞仏日記「パリツアーを僕が企画したら」