JINSEI STORIES
滞仏日記「欧州の異常気象、息子が僕を叱る」 Posted on 2019/07/26 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、パリで頑張るユーチューバー、エモジョア氏から「パリは40度越えが続いています」と悲鳴が届いた。ドイツの友人からは「最高気温が42度を超えて明日には43度になりそうだ」、ベルギーの知人からは「観測史上最高の温度が続いて、このままじゃ欧州は溶けてしまう」と何やら大変なことが起こっている。僕らが日本に入る直前もパリは猛暑だったので、それから一月、この状態が続いていることになる。異常気象である。(パリの我がデザインストーリーズの編集者から、明日以降多少気温が下がる見込みというメールも受け取った。そうなってもらいたい)
あまりの猛暑で原発が停止したり、鉄道の運休などが起こっている上に、ユーロスターが停止して40度を超える車内で乗客が閉じ止められた。日本と違って、欧州は冷房の普及率が5パーセント程度で、しかも、これは企業に限られており、一般の家庭で冷房設備のあるところはほぼない。(ダイキンの株がこれから上昇すると僕は予想している)なにせ、フランスでは信じられないことに46度を観測しているのだ。僕はこの七月ずっと博多で雨の中撮影していたので、この地獄を味あわずに済んだ。
原因は、僕の息子が常々訴え続けてきた「温暖化ガスによる気候変動の影響」なのである。二酸化炭素の排出をおさえていかないと地球の未来は危ない。実際、インドやパキスタン周辺でも50度を超えた。インドの北西部ラジャスタン州では51度を記録した。これは人間が生存できるぎりぎりの、あるいはそれを上回る温度なのだそうだが、危険な状態となっている。対岸の火事のような顔をしていたトランプ政権だが、米国も先週猛烈な熱波に見舞われている。息子が一番心配しているのは北極と南極の氷が驚くような勢いで溶けていることだ。彼は僕にその怒りをぶつけてくる。「パパの世代がろくでもないから、地球は終わろうとしている。くだらない問題ばかり日本のメディアは報じている。でも、数年後、恐ろしい事態が世界を襲い、あるいは想像もできない数の人間が死ぬかもしれないのに」
今日、世界中の仲間から同時に届いた「悲鳴」は、この地球の悲鳴でもあった。超大国の一部には温暖化問題に耳を貸さない横柄な国がある。正直、もうどうでもいい芸能ネタはここまでにして、メディアは切実な異常気象の問題を扱ってはどうだろう。オリンピックの夏、日本が45度になる可能性もある。若い子たちの未来を考えて温暖化問題を人類は真剣に考える時が来たのではないか。まだ、きっと間に合う。人類の底力を信じている。ちなみに、息子はいま福岡の実家にいるが、どんなに暑くても自分の部屋の暖房をつけない。僕一人でも温暖化を防ぎたい、と彼は意地になっている。(時々冷房を消し忘れたまま僕が家を出ようとすることがあり、そういうのを息子は本気で怒ってくる!)