JINSEI STORIES
滞仏日記「フランスで問題化、日本人ママの子供連れ去り事件」 Posted on 2019/05/29 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、バスを待つ子供たちが襲われた。日本から届くこの手の子供がらみのニュースを僕はとても読むことができない。冒頭のタイトルを見ただけで苦しくなり目を背けてしまう。弱い子供たちを狙う虐待とか暴力の事件が後を絶たないのはなぜだ。子供が大好きな僕はその不条理な怒りで一日苦しい気持ちになった。
日本人のママ友の会に参加しているが、今日、「日本帰国に際する注意」というタイトルで回覧が回った。僕以外のすべてのお母さんたちの結婚相手はフランス人という特殊な立場の在仏ママさんたちの会に僕は所属している。(互助会のような励ましあうための会かな)
「夏休み、パパ抜きで日本に帰る際にはAutrisation de sortie du territoire(要は離仏時の父親による承認書類、18才以下)の申請が必要になります。それがないと子供だけの出国が認められない可能性が目立ってきています。皆さん、ご注意ください」
この問題は先日フランスのニュース番組で報じられていた。要は日本のお母さんたちによる「連れ去り(酷い命名だと僕は思う)」が問題化しているのである。(日本のお母さんのせいと決めつけられないと僕は思うのだが・・・・)どういうことかというと、国際結婚が破綻して、外国籍のお母さんが子供を自国に連れて帰るケースが急増している。日本は離婚時親権がどちらかに移るけれど、フランスは離婚後も両方が親権を平等に持てるので、離婚成立後、子供の奪い合いが起きる。お母さんが日本に子供を連れていき戻さないことが頻発したのがはじまりで、日本のお母さんとハーフの子供の旅行などは特にチェックが入るのかもしれない。日本人のお母さん狙い撃ちと言い切ることもできるが、これが水面下で社会問題化している。離婚を経験した親しいママ友の一人は、フランスでの生活が出来ないのに父親から家を追い出されて、仕事もないのに無理してそれなりの部屋を借りて子供を交代交互見ているが、生活力がないのでその生活は長く続かず、泣く泣く日本に一人帰った。中にはそこに不条理を感じ、子供を連れて帰ってしまうお母さんたちが出現したというわけである。日本に連れて帰れば二重国籍なので、日本で教育を受けることが出来る。どうやらこういう問題が根本にあるようで、そもそも、離婚のための話し合いがきちんと出来てないまま、離婚だけが先走ってしまった弊害であろう。
僕の息子は一人でパリから東京に戻ることがある。或いは知り合いの日本人の帰国に便乗して羽田まで連れて行ってもらうこともある。18才以下の子供の離仏時には同じようなオートリザシオンが必要だ。去年、福岡で映画の取材をしていた時、息子を預けていたパリの友人から「今、空港なんだけど、息子さんを出国させるには書類が足りないと言われて困ってるの。パスポートの写真を今すぐ送ってください」と言われた。外で仕事中だったが、たまたま、持っていたのでそれを送って事なきを得たが、所持していなければ搭乗は拒否されていた可能性が高い。次から政府が発行する認定書類を前もって書き込んで提出するようになった。フランスは子供の誘拐も多いので、政府がピリピリしているのは当然かと思う。パリ在住の日本人ママ友たちの間でも「最近、一段と厳しくなったので、みんな気を付けましょう」と励まし合うメッセージの回覧が続いた。