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滞仏日記「僕のお気に入り、羽田国際空港のおススメ」 Posted on 2019/05/25 辻 仁成 作家 パリ

 
某月某日、一週間程度の短い日本出張が終わり、我が息子の待つパリへと戻ることになった。都内からのアクセスが便利な羽田の国際線ターミナルからパリへの直行便がJAL、ANA、エアーフランスなど一日数本出ている。僕は小さい頃から空へのあこがれが強く、空港という空間が大好きで、気が付けば立派な(?)「空港フェチ」となった。羽田国際空港は今年、世界の空港を格付けする「ザ・ワールド・ベスト・エアポーツ・オブ・2019」において世界二位に選ばれたのだとか、めでたいめでたい。羽田国際空港は清潔で、広々としており、どこがもっとも素晴らしいかと言えば、清潔感もさながら、その利用しやすさと分かりやすい点である。

3Fの出発ロビーに行き、チェックインカウンターで荷物を預けたら、出国手続きに入る前に僕は4Fの江戸小路へ必ず立ち寄る。焼き鳥屋、とんかつ屋、回転寿司など日本を代表する庶民派レストランが犇めく、映画セットのように店舗が可愛らしく配置されており、海外観光客の新たな観光スポットと化している。僕のおすすめは銀座に本店がある、おでんでも有名な、「おぐ羅」。何か最後にちょっと和のものをつまんで日本の生ビールでいっぱい、という時に最適で、僕のような在外邦人にとってはまさに祖国の味を出す店。パリではフレンチの日々かぁ、と思った次の瞬間には暖簾を潜っている。まず、ビールとおでんで軽く飲んでから、〆はダシ茶漬け。実はお茶漬けがあまり好きじゃないのだけど、ここのはダシの茶漬けは美味い。漁師ダレ真鯛茶漬け、炙り明太子お茶漬けセットなど、充実している。セットについてくるヒジキ煮まで繊細で美味であった。

1958年創業の金子眼鏡店もここに入ってる。可愛い藤田嗣治風の眼鏡を買ったことがある。江戸切子など日本の工芸品を扱っているKIRI japan design storeもおススメ。在外邦人は行くべき。厳選された小物にフランス人も大喜び。息子を預かってくれるフランス家族へのお土産はここと決めている。

とにかく羽田国際空港は居心地がいい。60年間「空港フェチ、ホテルフェチ」を自認してきた辻仁成にとって国の誇りでもある。めでたい、めでたい。ちなみに一位はシンガポールのチャンギ国際空港だが、ベスト10の中にパリのシャルル・ド・ゴール空港が入ってない。これはパリ市民としては非常に残念なことでもある。老朽化しているターミナル1などはそろそろ大改築が必要かもしれない。

さて、僕が羽田国際空港で必ず買って帰るのが「焼き鯖棒寿司」だ。24時間持つので、ついてすぐ息子とパクつくには最高で、息子も「日本の味だね~」といつも喜んでくれる。前は江戸小路の土産物屋にあったけど、昨日は店員さんに「取り扱いが終了した」と言われ、がっかり。ところが109番ゲート前にあるうどん屋さんのレジで見つけた!たぶん、探せば空港内のどこかにはあるはずだ。日本の味を海外までぜひ連れて行っていただきたい。焼き鯖寿司で、僕ら辻家は幸福になる。ほんと、日本行き、フランスに戻る日が楽しみになるくらいテーマパーク感満載の羽田国際空港なのであった。
 

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