JINSEI STORIES
滞仏日記「ウザがられないように導くのが僕の役目、親の仕事」 Posted on 2019/04/26 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、息子がここのところ夜遊びをはじめた。父としてはちょっと心配でもある。「パパ、夜ご飯食べに行ってもいい?」と言われるので「いいよ」と許可してご飯代(10ユーロ、だいたいマクドナルドに行くらしい)を渡していたが、その翌日も「今夜もでかけていい?」と言い出し、今夜で3日目である。夜の19時くらいにでかけて22時くらいまでには戻って来る。バカンス中なのにどこにも連れて行ってないし、パリ残留組の仲間たちと一緒だし、日が伸びて21時半くらいまでは明るいので、まあ、いいか、と大目に見ていたが、3日連続だとさすがに気になる。息子はパソコンの前から動かない子だったので「たまには外で遊んで来いよ。パパの頃は家なんかに帰らなかった」と言ったのがいけなかったのか、外出が楽しくなったようで、複雑な心境でもある。
仲良し3人組は近くの公園で落ち合い、マクドとかケバブ屋でご飯を食べ、芝生の広場で寝転がって音楽を聴いているのだそうだ。とくに目くじらを立てることじゃないし、その公園も売人がいるような危険な場所じゃないので、放任しているのだけど、不良に絡まれてお金を巻き上げられることも多いフランス、心配をすればきりがない。その上、僕が夜の21時半には寝てしまうので、何時に帰ったかわからないという盲点もある。今朝がたも目が覚めたので様子を見に行ったら、部屋の電気は点けっぱなし、着替えもしないで半ズボンのままベッドに寝転がっていた。携帯のワッツアップ(フランス版のライン)が通話状態だったので、それを切って、電気を消したが、まるで酔っ払いのオヤジのような恰好にあきれ返った。自分が15才の時のことを考えればそれでもかなり大人しい方かもしれない。息子はたばこも酒もやらないのでそこは安心だけれど、どういう影響を受けるかわからないので、放任しつつもシングルファザーは心を揉んでいる。
フランスの高校は校門の前で生徒がみんなたばこを吸っている。先生もいるけど注意はしない。すべて自己責任の国なのである。15才の未成年に自己責任というのもどうかと日本的思考の僕は首を傾げる。フランスの子供たちはお金を使わないで遊ぶ方法をよく心得ている。僕の友人の娘さんは13才だが、彼女は友達とスターバックスに行く。しかし、飲み物は高いのでお水だけ貰って2時間くらいわいわいと一番広いソファ席を占拠するらしい。正直、その悪びれることもない厚かましさにびっくりした。本人に、それ大丈夫なん? と聞いたが、全然平気なんですよ、と可愛らしく笑っている。僕がスターバックスの幹部だったら卒倒しそうな話だが、それがフランスの女子中学生の日常なのだとか・・・。お金のない子供たちは友達の家をハシゴして遊んだり、夜に公園に集まってだべったり、パリという都会で逞しく生きている。我が息子もついに外の世界の面白いさを知ったということだ。ごくごく正常なことなので、ある程度は大目に見なければならないだろう。何かが起きた時は起きた時で、それもまた勉強かもしれない。
パリはこれからさらに日が伸びる。夏の時期は23時くらいまで外が明るいのだ。息子の外出が増えそうな感じである。いろいろなことが変化してきている。中学生活はあと2か月しかない。夏休み後の9月から高校生になる。自由にさせながら彼が大人になるその道を踏み外さないよう、しかもウザがられないように導くのが僕の役目、親の仕事かもしれない。