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滞仏日記「健康を維持するためにやっていること」 Posted on 2019/03/26 辻 仁成 作家 パリ

 
某月某日、ここ最近、健康について聞かれることが多い。若さを維持したり、健康であるために何か特別なことをしていますか、と会う人会う人に訊かれる。大きな病気を経験したことはないし、いまだ白髪もなく、健康な方だとは思うけれど、正直、何をもって健康というのかよくわかってはいない。でも、毎朝、普通に目覚めて、普通に生活を送ることが出来、お酒も美味しく頂けるのだから、たぶん健康なのだろう。特別なことはしていないが、ただ一つ続けている習慣がある。毎朝、生の人参ジュースを飲んでいる。(有機人参を専用のジューサーで絞って生のジュースを作る。人参一本でコップの5分の一ほどのジュースしかとれない。僕は飲みやすくするためにリンゴとかレモンを加えている)皮ごとジューサーにかけるので、有機の人参じゃないとだめだ。知り合いの知り合いが大病をされ、絶望視されていたのだが、人参の生ジュースを飲むようになって元の生活が出来るまでに快復された。正直、それが正しいと思ってやっているわけではない。なんとなく健康にいいと思いこんだから続けているに過ぎず、というのか、何か一つくらい健康そうなことをやってみたかった。一説によると、生の人参ジュースには酵素がたくさん含まれているのだそうだ。ただ、注意しないとならないのは、低速ジューサーで絞らないとならないということ。高速でジューサーにかけると酵素が熱で破壊されるのだとか。ほんとうかどうかわからない。知人の受け売りに過ぎない。飲み始めてどこか特別な変化を感じるわけでもない。でも、健康というものは目に見える成果が突然現れるようなものじゃないだろうし、見えにくいからこその価値であろう。だまされたと思って続けている。しかし、健康そうな習慣を持っていることが、僕をなんとなく健康そうにさせているようなところもある。
 

滞仏日記「健康を維持するためにやっていること」

今年は10月にオーチャードホールでのワンマンコンサートが控えているので、特に体調については敏感になっている。身体を鍛えて、最高のライブを披露したい。オーチャードでライブを、という話が起こった時に奮起した。毎朝3キロ程度、家の周辺を走っている。ライブまでは毎日続けようと思っているが、走った後は食事が美味しいし、身体が心なしか軽くなっている。健康というのはもしかすると精神面からやってくるものじゃないかと思う。日々、健康的な暮らしを心がけることが大事かもしれない。しかし、パリは大気汚染が酷いので、注意報が出ている時は走るのを自粛している。主治医に「大気汚染が酷いと逆に身体を悪くさせるので走らないように」と忠告された。AIRPARIFというアプリがあり、毎日、大気汚染の深刻度が色で表示される。五段階色分け表示で、ポリューションが「ほぼない」「少ない」「普通」「ちょっと酷い」「かなり酷い」となっている。安全なら緑、安全じゃなければ赤だ。今日は薄緑色で危険度41点であった。フランスはディーゼル車が多いので本当に大気汚染が酷い。フランス政府はあれやこれや法律を整備して公害を減らそうと努力している。たとえば大気汚染が酷い時はパリ市内への車の乗り入れが制限される。一時期は貸出電気自動車もあった(お金がかかり過ぎて廃止)し、貸出自転車もあちこちに設置されている。セーヌ川岸の道は大胆にも歩行者や自転車利用者のために車が走れなくなったし(そのせいで渋滞も招いている)、とにかくパリの大気汚染を減らすためのあの手この手の荒療治を実施中だ。ともかく、そういう環境の中だが、何もしないわけにもいかないので、今日はセーヌ川の川岸を走った。まずは10月のライブを我が人生史上、最高のものすることが、僕の今の生きる目標でもある。そのためにはまず健康であること。
 

滞仏日記「健康を維持するためにやっていること」